ハッカー殲滅作戦(百六十九)
それでも牧夫は、約束した分の缶ジュースを買った。
それと、自分の分。それをカバンに入れて、通路を歩く。通路の先では、壁際に兵士がピッタリと貼り付いて、敵と応戦中だ。
「高田部長は、何処行きました?」「えぇ?」
姿が見えないので、知らない兵士に聞いて見た。そうしたら、つれない返事が返って来た。
「こいつですよ。こいつ」
そう言ってから牧夫は、二丁拳銃を持つ仕草をしてニヤッと笑い、舌をベローンとさせてみた。すると、それを見た兵士の顔がパッと笑顔に変わる。
「あっちの階段を降りて行きました(パパパッ)」「そうですか」
ちらっと覗き見ると、確かに階段がありそうな気配がある。
「何があるんですか?」「さぁ。そこに案内図が(パパパッ)」
兵士が指さした方に、『館内案内図』がある。
「あれですか?」「(パパパッ)えっ? あぁそうです」
牧夫が指さした先を、応戦しながらも確認し、丁寧に答えてくれる兵士。流石『グループ企業』である。
牧夫は頷いて、ちらっと顔を覗かせる。
「危ないっ!」(チュンチュン)「おっとぉ」
コンクリートの破片が足元に転がった。肉体の破片はないようだ。
「ちょっとぉ。勘弁して下さいよぉ。『琴坂さん』ですよねぇ?」
「えぇ。良くご存じで」
知らない兵士から名前を言われて、牧夫は驚いた。自分の身分は、結構秘密になっているのに。
「もうちょっとで制圧しますからぁ」
弾を補充しながら、兵士が苦笑いして制止する。勘弁して欲しい。
吉野財閥自衛隊の面々は、しかと命令されていた。それは『琴坂琴美の奪還』と、『琴坂牧夫の無事生還』である。
この二人に『万が一』のことがあった場合、『皆殺し』になると、総帥からマジ顔で言われてきたのだ。どう殺されるのか知らないが。
しかし、そんなことを知らない牧夫にも、『立場』というものがあるのだ。
「いやぁ、本部長にコーヒー持って行かないとぉ」
渋い顔で言う。これには兵士も渋い顔だ。
吉野財閥自衛隊の面々は、しかと命令されていた。それは『本部長に銃を渡すな』と、『高田部長にパソコンを渡すな』である。
この二人に『万が一』のことがあった場合、『皆殺し』になると、総帥からマジ顔で言われてきたのだ。どう殺されるのか知らないが。
「任務ご苦労さまです。じゃぁ『GO』って言ったらどうぞ」
「判りました」
素直に牧夫が頷いたので、弾を装填して構える。
しかし直ぐに振り返って、牧夫に質問する。
「そのカバン、何ですか?」「パソコンですよ? 一応ね」
牧夫は『技術者』らしく、にっこりと笑った。




