ハッカー殲滅作戦(百六十六)突入
ハーフボックスは、意外な程目的地に速く着いた。
扉を開けようとする牧夫の手を、朱美がパッと掴んで阻止する。二人は狭い室内で目が合った。
何でしょうか。このまま何かが『おっぱじまる』のでしょうか。
えーっと、その表情は『行かないで』なのでしょうか。
それとも『もうちょっとこのままで』なのでしょうか。
牧夫は顔をしかめて困る。その手を振りほどくべきか。それとも『期待に答える』べきか。何だか知らないが。
すると『パカン』と扉が勝手に開き、高田部長が覗き込む。朱美は恥ずかしそうに、パッと牧夫の手を離すと、再び牧夫の頬を『パチン』とやった。
「おぉ? おぉ? 『夫婦役』だからって、ダメだぞぉ」
嬉しそうに牧夫を見ながら、両手の人差し指を向けている。牧夫は意味が判らなくて高田部長の方を見た。
『これ、仕事なんでしょうか?』そんな目で訴える。
「何? お前も来る?」「いや、良いです。早退します」
いつもの『呑気な会話』が始まった。後ろでフル装備の兵隊さんがウロウロしていなければ、まるで普通の会社での会話だ。
『パパパパッ』
乾いた『戸板を叩く音』がして、高田部長がちらっと振り返ったが、直ぐにこちらに笑顔を魅せる。
「早退して、何処行くの?」「娘を探しに行くんですよ」
牧夫の真顔が嘘臭い。どうせ『在宅ワーク』にするんだろぉ? 判ってんだからなぁ?
それでも高田部長は、ハーフボックスに乗車する前に、牧夫がスマホを覗いていたのを思い出す。
「一丁前に家族の心配とか。今更、父親ぶってるんじゃねぇよっ」
笑いながら牧夫の肩を叩く。
北アルプスの山中でブリザードに阻まれ、身動きできなくなったことを思い出す。やっと無線が繋がったと言うのに。こいつは。
五色ヶ原まで『奥さんと娘の着替え(勝負下着)と、ついでに差し入れ持って来い。ヘリでも良いから』と、ちゃんと連絡したのに。
こいつ『十日もシカト』して、平然と会社に行ってやがったくせに。『家族の心配』とか、ちゃんちゃらおかしい。
「娘さん『直ぐ近く』に、いると思いますよ?」
そう言いながら、朱美が右手で『ココ』を指さしている。
「らしいぞ? どうする?」「えぇっ?」
どういうこっちゃ。牧夫は渋い顔だ。『勤務時間にしていいから』と言われた『BBQ』のことを思い出す。
「じゃぁ、『残業』ですからねっ!」「OKOK」
牧夫は忘れていた。課長には残業が付かないことを。




