ハッカー殲滅作戦(百六十五)
牧夫はハーフボックスに押し込まれた瞬間、朱美に引っ叩かれた。
何だろうと思って朱美の方を見ると、スカートを整えているので、『変なことを考えている』と、考えたからだろう。
『女性に引っ叩かれるのは、この程度か』
そんな風に、妙に納得して頷く。
可南子が牧夫を引っ叩く所なんて、想像すらできない。妻は幾つになっても、『とても大人しい女の子』なのだ。うん。
琴美からの『緊急信号』を受信したことは、ナイショにしておこう。無事に助け出せば、余計な心配をさせなくて済む。
朱美の方も、とりあえず引っ叩いたのが牧夫だったのでびっくりしていたのだが、こいつは本来のターゲット『高田部長』と一心同体なので、良しとする。
だってその証拠に、『文句の一つ』も言ってこないではないか。
『男性を引っ叩いても、この程度か』
そんな風に、妙に納得して頷く。
きっと今頃高田部長は、『どうして頬が痛くなったのだろうか』と、不思議に思いながら、反省しているに違いない。
ハーフボックスの隊列は、勢い良くNJSを飛び出した。
普段は牧夫の心配などしない朱美が、真顔でスマホを睨んだままの牧夫に話し掛ける。
「どうしたんですか?」
「うーん。娘から『助けてくれ』って、信号が入っていてね」
「えぇっ!」「何? 何?」
その言葉に、朱美が思いの外『大きな声』で驚いたことに、牧夫は驚いた。
「い、いえすいません。いやぁ、ご家族のこと、心配するんですね」
「当たり前じゃないですかっ!」
何を言い出すんだと思って、牧夫の声も、つい大きくなる。すると朱美が『すいません!』な顔になって、委縮している。直ぐに許すことにした。
「すいません、ちょっとスマホ、お借りします」
朱美が、半ば強引に牧夫の手からスマホを取り上げる。するとそこには『聞き覚えのある時間』に、『聞き覚えのある場所』からの、『緊急信号』が示されていた。
朱美の顔が曇る。どういうことだ?
どうやら楓は、『琴美の護衛任務』に、失敗したらしい。
ふと思い出す。お義母さまが楓を叱りつけていたことを。そして『私は破滅だ』と、多分叫んでいたことを。
急いで楓に電話しようと、番号を押し始める。
「お家に電話?」「はい。借りますね」「どうぞ」
しかし楓が出ない。首を傾げて直ぐに切り、今度は専用システムにログインして、『バックの位置情報』を確認し始める。
心配した牧夫がスマホを覗き込むと、それはハーフボックスの行先と『同じ場所』を指していた。何だか知らないが。




