ハッカー殲滅作戦(百六十三)
秋葉原のNJS本社には、『非公開エリア』というものが数多く存在する。その内の一つは、薄荷乃部屋があるエリアである。
実際、薄荷乃部屋は二つあって、どちらの部屋が使われるのかは、プロジェクトによる。
どちらの部屋も、見分けが付かない『別のフロア』にあって、出入りは『ハーフボックス』と、『来賓用エレベータ』だけである。
そんな『来賓用エレベータ』がある場所も『非公開エリア』であるが、そこに隣接してあるのが『吉野財閥自衛隊』の出入口である。
軍事機密を取り扱う場合に、『関係者』が出入りする所であり、そこに『フル装備』の軍人が、軍靴をコツコツ鳴らしていても、一般社員が驚くこともない。あっ、朱美を除いて。
「嫌ですっ! あんな所に、行きたくなんてありませんっ!」
結構騒いでいるが、なだめているのは高田部長だけである。他の皆さん、もうちょっと具体的に言うならば、『フル装備の関係者』は、銃のお手入れに余念がない。
「まぁまぁ。まだ『死んだ』と決まった訳でもないでしょうにぃ」
「決まったも同然ですよっ! 知らないんですかぁ?」
高田部長は、『強く押したらセクハラかなぁ』と思いつつ、ピーピーうるせぇ朱美を、早く『ハーフボックス』に押し込みたい。押し込んで『発射』いや『出発ボタン』を押したい。ミントちゃんの『生成画像』を見て、噴いたのを思い出す。
「知らないよぉ。行ったことないんですからぁ」
「銃を構えた人が、何人も待ち構えているんですよ?」
朱美の肩を押そうとしたら、『銃の構え』を再現した腕に弾かれて、それは無理だった。
「想像できますぅ? ホントォーに、怖いんですよ?」
「だそうですぅ」
朱美の真剣な訴えを、高田部長は首を曲げて後方にスルーする。するとそこには、出発準備OKの一団が。
「任せて下さいっ!」「我々が付いていますっ!」
「心配無用ですっ!」「我々が先にぶっ放してやりますよっ!」
「ワハハハ」「お前、それはどうなんだよぉぉ」「欲求不満かぁ?」
銃を掲げて見せ、笑っている。きっとここが『館内』でなかったら、空に向かってぶっ放していてもおかしくはない。
「だそうですけど?」
そんな様子を笑顔で見ていた高田部長が、ニッコリ笑って朱美に聞く。しかし、遂に怒り出してしまった。
「私が『先頭』なんですよ? ちゃんと来るんですかっ?」
「だそうですぅ」
まぁた呑気に、スルーされて、朱美は高田部長の足を、振り上げた右足でギュッと踏んだ。
一斉に笑いが起きる。しかし、当の『本人』からは、何の反応もない。悔しくて朱美は、何度も何度も踏む。
「これ、安全靴だから。へいきぃ」




