ハッカー殲滅作戦(百六十一)
「そうだ、『本物ついで』にもう一つ、『お耳に入れたい事項』がございまして」
急に不思議そうな顔になって、右井少尉が首を傾げる。石井少佐は少し身構えるように、椅子に座り直した。
「石井少佐は、例の『禿げ頭の歌』は、ご存じでしょうか?」
「あぁ。知っているよ」
当然のように石井少佐が答える。そして、まるで『全部歌えるぜ』とでも言うように椅子にそっくり返った。ちょっと得意気だ。
そのまま黙っていれば、歌い出しそうだ。
『見よ父ちゃんの禿げ頭♪ ピィカピカ光る禿げ頭♪』
「それは私も、聞いたことがあります」
いつだったか、中華屋で石井少佐に『歌ってもらった』井学大尉も笑顔で頷いた。
聞けば思い出すだろうが、良く覚えてはいない。それにしても、何だか人を子馬鹿にしたような、随分下品な歌詞だった覚えはある。
すると右井少尉が、やはり首を傾げたまま報告する。
「どうやら『その歌』を、歌っていたらしいのです」「誰がだぁ?」
ちょっと『日本国に詳しい者』なら、歌えるだろう。誰が作ったか『動画』として流行ったこともある。
いや、歌えないか? だから『不思議』なのであるが。
「例の『日本国からの客人が』です」「なんだってぇっ!」
ポンポンポンと会話のリレーが続いていたのだが、驚いた石井少佐が前のめりに戻って来た。机の上に両手を付けている。
「それに、どうやら『禿げ頭じゃない歌詞』を、三番まで?」
右手で『三』を作り、益々渋い顔になった右井少尉が首を傾げた。
しかし石井少佐は、両手に力を込めて益々前のめりになっている。
「おいおい。どんな歌詞だったのかね?」
『やっぱりそう来ますよねぇ』とでも言いたげな顔になって、右井少尉は黙る。井学大尉の方に『救いを求めるような目』をしても、それは無意味である。
「それは、一体、どんな歌詞だったのかね?」
重ねて聞く。石井少佐は考えていた。前々からずっと。
何故『第二の国歌』とまで言われていた歌が、『ある時期』を境に、パッタリと歌われなくなってしまったのか。
そして『禿げ頭の歌』は、その実『替え歌』であろうことも予想していた。余りにも『ピッタリ過ぎる』その歌詞は、その歌を『かなり歌い込んだ歌い手』が、全く違う物に書き換えた物だと。
「それがぁ、守衛が『遠くから聞いた』と言うのもあるのですが」
「うん。うん」
石井少佐は目をギラギラさせて、前のめりになる。いよいよ『謎が解けるとき』が、やって来たのだ。
「歌詞が難しくて『多分日本語』としか、判らなかったそうです」
『ドンッ』と、石井少佐は机上にズッコケた。しかし、直ぐに起き上がって大声で叫ぶ。
「国語学者を呼べっ! 今、直ぐにだっ!」




