ハッカー殲滅作戦(百六十)
「持ち物についてですが」
右井少尉が書面を見ながら、話を切り出した。
「何か『それっぽいもの』でも、持っていたのかね?」
「それが、特に何もなくてですね」
残念そうに言う、渋い顔だ。
「あれは? 『日本国』のパスポートとか?」
「そういうのがあれば、良かったのですがぁ」
石井少佐の問いに、右井少尉が眉をひそめて答えている。
「本当に『そんな物』が、存在するのですか?」
不思議そうに聞くのは井学大尉だ。すると石井少佐は頷く。
「あぁ。過去に二回見つかっていてな。それが不思議でなぁ」
「大尉殿は、ご存じないのですか?」
右井少尉が不思議そうに尋ねるが、井学大尉は『知らんもんは知らん』とでも言いたげに、頷くばかりだ。
「大尉は『こっち』に移って、まだ日が浅いからな」
笑顔でフォローしたのは石井少佐だ。
「すいません」
「いや、謝ることじゃない。私の『護衛』で、手一杯だしなっ」
そう言って、ポンポンと叩く。有難いことだ。
しかし井学大尉は、『石井少佐に命を救って貰った方が多いのでは?』とも、思っていた。
「日本国のパスポートは、英語のように『左から』『日・本・国』と書かれておりまして」
右井少尉が右手で空中をポン・ポン・ポンとやって、パスポートの説明をする。すると石井少佐が頷いて、続きを説明する。
「ちゃんと『菊花紋章』が入っていてな?」
「そうなんです。何かそこは『センスが一緒』みたいで」
石井少佐の言葉に頷いた右井少尉が、説明を続ける。
「やっぱり、『日本だ』って、安心するよなぁ」
「その通りです」
そう言って二人は笑い合った。
実は井学大尉は『別世界』とか『平行世界』について、信じてはいない。そういうことが言われているのも知っているし、研究成果について、とやかく言うつもりもない。
「英語でなぁ? ちゃんと『JAPAN』って書かれていてなぁ」
「そこも、同じなんですよねぇ。不思議ですよねぇ」
そんな風に言われても、井学大尉には『体の良い偽物』位にしか思えない。パスポートなんて、東急ハンズに行けば売っているし。
「それは、『本物』なんですか?」
井学大尉の言葉に、石井少佐と右井少尉が顔を見合わせて『キョトン』としている。
まるで、『そんなこと考えもしなかった』と、言っているようだ。井学大尉はそんな二人を見て、『ニヤリ』と笑った。その時だ。
「我々の技術を持ってしても、『複製不可』だったのになっ」
「そうなんですよねぇ。あれは絶対『本物』ですよぉ」
それを聞いて、井学大尉の顔から笑顔が消えた。




