ハッカー殲滅作戦(百五十六)
「あのぉ、私まで、何処へ行くんですか?」
不安そうな顔で、朱美が訴える。護衛が付くんだか、付かないんだか。しかし、聞かれた高田部長は渋い顔だ。
「あのぉ、私は『お留守番』ですか?」
「そうね。富沢部長は、留守番よろしくね」
朱美の質問には答えず、先に答えた。すると富沢部長は、一瞬『パッ』と笑顔になったが、直ぐ横の朱美に遠慮してか、真顔に戻る。
「人質に取られると、始末が悪いからなぁ」
その『余計な一言』で、ムッとした顔になった。『誰』とは言っていないが、そんなの明らかだ。
「ちょっと、どういうことですか?」
それには高田部長が答えない。朱美の方を向いて、『どうしようか』考え中のようだ。
「ちょっと『研究所』に行って貰おうかと」
「私の『前任地』ですか?」
首を傾げて聞き直す。この忙しい時期に『出向解除』だろうか。
「いやぁ。そっちじゃないよ。なぁ?」
今度は、同行することになった牧夫の方を向いて、同意を求めた。そんなこと言われても、牧夫は困る。
すると、牧夫がパチパチッとまばたきを始めた。
それは脳内で、今までの高田部長との『全会話』を再生し、該当箇所でストップさせる作業だ。
『あぁ、そうだ。ソースのコメントによると行先は『研究所』です』
ハッカー殲滅作戦(五十七)より抜粋。
「言ってましたぁっ! でも、大分前ですよ?」
該当箇所を引き当てて、牧夫が唸る。
「時間的には、まだそんなでもないだろう?」
「いやいや、投稿的には『二カ月も前』ですからっ!」
そんなこと言われたって、高田部長だって困る。
「良いんだよ。とにかく『研究所』まで、案内よろしくなっ」
真っ青になっている朱美と、突っ込みを入れて『イエーイ』になっている牧夫の肩を、ポンポンと叩く。
そして、肩をグイッと回して、出口へ促す。
「ミントちゃん、開けてあげてぇ」
『承知しました。出口へどうぞ』
もう、勝手に『決定』のようだ。出口の扉も既に開いていて、ミントちゃんまで『早く出ろ』と言っているのか?
どの『研究所』か未だ不明。しかし、朱美は疑っている。『研究所に着いたら、帰って良い』なんて絶対に嘘だ。
もし『あの研究所』だったら、帰れっこない。だって、『前回着いたとき』だって、突然銃を突き付けられて、何もできなかったではないか。第何回か忘れたけど。確かそんな感じだった。




