ハッカー殲滅作戦(百五十)
その日の夜遅く、大隊本部の会議室に『山狩りの関係者』が集められていた。
その中で、意識を取り戻した狩野と、バナナが『のどちんこ』に当たって、窒息寸前だった所から救助された吉田が、『参考人』として出席している。
「相手は、何人だったのかね?」
「判りません! 一瞬だったので!」
渋い顔で、狩野が答える。本人にしてみれば、一瞬の出来事であり、どうして『ココにいる』のかさえ、理解できていない。
ただ『死ぬとき』は、『こんな感じ』の、『目が覚めない版なんだろうなぁ』と思って、恐ろしくなってはいる。
だから、生きている今の方が、随分マシだ。
「吉田君は、覚えているかね?」
「はいっ! 二人でありますっ!」
「他には? あれだけの『機材』を、持ち込んだんだ。どうだ?」
放置されていた機器は、既に全部回収されている。そして、そこに挿してあった『USBメモリ』も、無事回収されていた。
それによると、どうやら『情報漏洩』は、無かったと思われる。
慌ててバックアップを開始したのは良いが、それが終わる前に『山狩り』が迫っていて、逃げ出したのだろう。辻褄が合う。
「私が相手したのは『隠密部隊』であります」
真顔で吉田が答えたが、それは答えになっていない。
鮫島少尉は、諭すように吉田に質問する。
「いや、他に『仲間』がいた筈だ。いいかね? 二人だとしても、だ。武装した上に、あの量の機材をだね、あんな森の中に? 指定された訓練時間ピッタリに、どうやって持ち込んだと言うのだね?」
「ですから、私が相手したのは『丸腰』の二人でした」
「えっ、武装してジープに乗っていて、丸腰にやられたのかね?」
「はい。その通りです」
吉田は渋い顔になって、正直に答える。何事も『事実』を伝えることは、今後の『対策』に必要なことなのだ。
「おい、あの機材、一人で担げるか?」
「武装が無ければ何とか。しかし、食料は要るでしょう?」
「そうだなぁ。水も要るよなぁ」
本部のジープにいた士官三人が、話し合っている。
「現場から『炊事洗濯の跡』は、発見できませんでした」
横から『現地報告』の声が聞こえて来た。しかし、誰も『洗濯はしねぇよ』の突っ込みは入れないでいる。大人の世界だ。
「鮫島少尉、『隠密部隊』からの伝言があります」
吉田にしてみれば、嫌な思い出なのだが、言わずにはいられない。
「何だってぇ? 向うは本当に、『軍関係者』だったのか?」
「はい。そうとしか思えません。恥ずかしながら伝言のため、私は生かされていると考えます」
会議室が静かになった。
狩野が嫌な顔をして、吉田の方を向き『報告』を待っている。
軍関係者か誰だか知らないが、どうやら自分が生き残ったのは、『本当に偶然』のようだ。
「判った。君も『伝言しない』訳にもいかないだろう。話したまえ」
鮫島少尉が、丁寧に右手を伸ばして吉田に言う。
鮫島少尉は、この中で『吉田との付き合い』が一番長い。いつも移動の際は運転手を任せていて、信頼している。
仮に、もし『吉田が亡くなっていた』ら、個人的には一番にブチ切れていただろう。
「では、失礼を承知で『言われたまま』お話しさせて頂きます」
「構わない。どうぞ」
鮫島少尉は頷いて、もう一度吉田に促した。そして、先に『苦笑い』になって、吉田の報告を待つ。
「では、失礼します」
吉田は一礼して『モノマネ』するように、話始めた。
『俺は『重村大佐』だ。現場の『鮫島君』によろしく』
『依井には『今度呼び出す』って伝えろっ』
会議室の全員が渋い顔だ。何と言う失礼な奴だ。
「私が返事できないでいますと、ですね」
吉田も渋い顔で一旦『地声』に戻ると、続きを話す。
『何だぁ? 『ボケ茄子依井』の方が良かったかぁ?』
「もう良いっ!」
鮫島少尉が、思わず吉田の演技を止めた。




