ハッカー殲滅作戦(百四十三)
黒田と黒井は、夜の森を一目散に走っていた。
しかし黒井は、その『走る方向』しか判らない。流石にパイロット。何も『目印』がない所で、東西南北四捨五入をちゃんと見極める方法を知っている。それは『月』と『星』だ。
「これ、進む方向、合っています?」「ん?」
黒田に聞くと、まるで『お前、判んないの?』と、心配でもするかのように言われた。
時に『目は口程に物を言う』の格言通り、今、黒田の目はそう語っている。あっ、ほら。やっぱり。
一度前を向いたのに、また黒井の方を見てパチパチしているし。
すると突然、黒井が右目を瞑って笑う。
「俺も判んねぇ」(ズサーッ)
黒井は木の根に引っ掛かって、転んでしまった。しかし、黒田はそんなことでは止まらない。振り返りもせず、走り続ける。
何しろ今は、山狩りから逃れている最中なのだ。
黒井は直ぐに起き上がり、視界に残る『黒田の影』を追う。転ぶ時も、黒田の姿を視界から外してはいなかったのだ。その辺の所は『流石だ』と褒めてあげよう。
黒田一人だったら『闇夜の森に紛れる』のも、実は、簡単だったのかもしれない。
しかし、黒田は考えていた。もちろんそれは、黒井のことではない。奴は転んでも、タダでは起きない男。きっと何かを掴んで来る。
それよりも今は『温泉』だ。何が嬉しくて、演習場の森を走っているのやら。である。
「何処へ行くんですか?」
やはり、黒井が追い付いて来た。黒田は笑う。
しかし黒井は笑っていない。変な答えに驚いて転び、そしてそのまま見捨てられ、それでも無駄に加速して、やっと追い付いたのだ。
「止まれっ」
黒田が右手を黒井の前に出した。黒井も今度は直ぐに止まる。
そして、藪の中で姿勢を低くして、前方を覗き見る。
本当に黒田には、感心してばかりだ。一体何処を見て『先を予測』しているのだろうか。
ほんの先に、一台のジープが止まっていて、運転手と助手席に一人づつ。ライトを点けて停車している。
どうやら『山狩り二列目』の『無線係』だろうか。助手席の男が、しきりに無線を使っている。
「お前、どっち殺れる?」「えっ?」
黒田に聞かれて、黒井は唸る。同じ『日本人』を、『陸軍の演習場内』で? マジすか? 国民を守るべき自衛隊員が、ですか?
「じゃぁ、俺が殺る」「えっ!」
黒田の発言には驚くばかりだ。するとそこへ『三人目』の歩哨が。




