ハッカー殲滅作戦(百四十一)
「何ですかそれぇ。『中佐』ですよぉ。判るでしょぉ?」
黒田のふざけた反応に、黒井は怒る。
「お前がかぁ?」
イマイチ『信用できない』その目で、黒田が見ている。
「いやいや、パイロットなんですからぁ」
「その顔でかぁ?」
「何すか。この際、顔は関係ないでしょ」
「いや、パイロットならもうちょっと『ビシッ』とした顔してるよ」
「こんな『草むら』の中だからですよぉ」
「おぉ。言訳言訳。言訳だけはぁいっちょまえぇ」
二人で話しながら歩いているが、『山狩り』からどうやって逃れるのかは、正直な所『黒田次第』である。
黒井も流石に現役自衛官。黒田のペースにしっかりと追い付いて、離されたりはしていない。
いやこの場合、『じじい』の方が凄いと、言えるのかもしれない。
「お前、『鬼ヶ島』行ったことあるのかよ?」
それで『ピン』と来ない者はいないだろう。
「ありますよ。『江田島』ですよね?」「ほぉぉっ」
ちょっとだけ黒田の『見る目』が変わった。
「じゃぁ、『黒井中佐』なっ」
どうやら『設定』について、決定したようだ。しかし、士官として認めてもらった黒井の方が、渋い顔だ。
「何で俺の方は『本名』なんですかぁ?」
一応苦情を言ってみたのだが、黒田は鼻で笑うばかりだ。
「うるせぇなっ。良いんだよ。どうせお前の『設定』なんて、何の役にも立たないんだからよっ」
確かにそれは言える。こちらの世界で『黒井中佐』と言った所で、調べられればおしまいだ。
だとしたら『重村大佐』だって、同じじゃないか。
黒井はニヤッと笑って、黒田に指摘する。
「そっちだって」「馬鹿ッ。静かにしろっ!」
いつの間にか黒井の『設定』は『馬鹿』になってしまったようだ。
「何ですか? 『じじい』」
こうなりゃ自棄だ。黒田の『設定』は今から『じじい』だ。
「馬鹿、ライトが見えてるだろぉ?」
黒田が指さした方向に、チラチラとライトが見える。
「じじい、鳥目のくせに、良く見えるなっ」
黒井が言ったその言葉を、黒田は『誉め言葉』と受け取ったようだ。ニヤリと笑って、何も言わない。
「いてっ」「馬鹿、静かにしろっ」
わき腹に黒田からの肘鉄を食らって、黒井は思わず言葉を漏らす。するとじじいが、すかさず注意する。
「注意して探せ。見逃すなぁ」
声がした方から、ヘッドライトの明かりが近付いて来る。




