ハッカー殲滅作戦(百三十七)
(録音された文字起こしより再現)
『えぇ。写真の一枚も、持ってないのぉ』
『ないですよぉ。しつこいですねぇ』
『じゃぁ、ちょっと呼び出して来てよぉ』
『むぅりぃでぇすぅぅ』
『なんでぇ? 判った。実家に帰っちゃったとかぁ?』
『違いますよっ! 私が彼の実家住まいなんですからっ!』
『えぇー。じゃぁなんでよぉ。あぁぁっ。他の女の家っしょ!』
『ちぃがぁいぃまぁすぅ』
『そぉなのぉぉ? 怪しいジャン』
『Fー15と、一緒にしないで下さい!』
『いやっ、まぁ、俺程「井伊男は、そうはいないけどさぁ』
「家の旦那、今、『富士山』なんでっ!」
冷たく高田部長に言い放った。
「何だ、じゃぁ『テレビ電話』で呼び出せる?」
天上を向いてミントちゃんにリクエストする。
『お安い御用です』
すると呼出音がして、富士山測候所に繋がった。
朱美のコンソール画面と、正面のスクリーンに、テレビ電話の画像が映し出される。
すると、富士山測候所の方が、急に慌ただしくなった。
何だか知らない所からの呼び出しで、応答に答えて見たら、『奇麗な女の人』がニッコリ笑っている映像がアップになったからだ。
まさか、そんな様子を『見られている』感じもなく、『見せろ』『なんだよ』『おいおい何だ?』と、入れ代わり立ち代わり髭面の男達が、スクリーンに映し出される。
するとそこへ、『YES・YES・YES』とプリントされたマグカップと、丸めたエロ雑誌を握り締めた弓原・徹、朱美の旦那が通りがかった。スッキリとした顔だ。
それが、チラリとテレビ電話の画面を見たと思ったら、急いで近づいてくる。そして、手にしている丸めたエロ雑誌で、『ポコン』『ポコン』『ポコン』と頭を軽く殴り始めた。
『何するんですかぁ』『自分ばっかりぃ』『えぇ? 奥さんなのぉ』
雑音がして、テレビ電話の向こうがガサガサし始める。そうして、にこやかな『徹の顔』がアップになって、画面が落ち着いた。
「ぃやだぁ。そのカップ、持って行ってたの?」
『あぁ。だって、これ、朱美がプレゼントしてくれた奴だしぃ』
テレビ電話の『画面外』は、向こうもこちらも『ニヤニヤ』している連中が見守っている。
「ちょと、会社の上司から、話があるんですってぇ」
『何でしょうかぁ、お天気なら『雪』ですよ? (ハハハ確かに)』
何だかまだ周りに、人がタムロしているのだろうか。楽し気な雑音が入って来る。
「いえいえ。お天気ではなく『富士山レーダー』の周波数をですね」
『えぇっ? (ハハハッ)(おいおいおい)(それは困ったぁ)』
何だか向こう側が、メッチャ騒がしい。高田部長は不思議に思って、首を傾げた。
「あのー、何か?」
『いえいえ。ちょっと静かにっ。笑っちゃダメでしょぉ。あっ、すいませーん。あのですね、『富士山レーダー』は、とっくの昔に運用を終了しておりまして、現在停波中です(その通りデース)』
「そぅで、す、かぁ。ありがとうございますぅ」
画面の向こうではエロ雑誌を広げ、こちらに向けて騒いでいる残像が映っている。それを高田部長が見ないとは。
それもやがて途切れて真暗になり、テレビ電話が停波した。




