ハッカー殲滅作戦(百三十三)
仮本部の鮫島少尉は、青ざめていた。対策が不足していたのだろうか。そうとしか思えない。
何しろ、全ての部下が『沈黙』してしまったのだ。
最後に残っていた『防弾ガラスのバス』は、自動警備一五型五機に取り囲まれ、その強靭な『腕力』で防弾ガラスが粉砕された後、ミントちゃん五十機からの『熱い放銃』を全身に浴びて、全滅したようだ。無残にも程がある。
『なんだこりゃぁ』『ざーけんなぁー』『おかあちゃーん』
89式をぶっ放す音に混じって、阿鼻叫喚の叫び声が響き、バスのチームは沈黙した。今聞こえるのは『不吉な羽音』だけだ。
今頃『の』の字を書きながら、泣いているかもしれない。
「あいつら、星になったのかなぁ」
「無事に、靖国へ行けたら良いですね」
「墓前に『温泉饅頭』、供えてやるか」
いやいや『訓練』ですから。しかし、お通夜ムードの仮本部はしんみりとしていて、誰も突っ込む者がいない。
みんな、カラオケと、温泉と、かつ丼と、ヒトマル式戦車が好きな良い奴らだった。残念で仕方ない。
墓前には『真っ白い薔薇』を供えようじゃないか。
鮫島少尉は、決心して立ち上がった。すると、仮本部に詰めていた他の隊員もスッと立ち上がった。
まだ、誰の目も死んではいない。彼らは最後まで戦う気だ。
誇り高き『帝国軍人』として、『機械帝国の野望』を打ち砕き、明るい未来を、この『我々の手』で、切り開くのだ! (ウォォッ)
同時刻、薄荷乃部屋の高田部長は、鮫島少尉の『演説』を聞いて、笑い転げていた。
苦笑いをしている牧夫に、最終指示を出す。
「おい、ミントちゃんの『888番』を向かわせろ」
「えっ? 良いんですか? 『秘匿機』ですよね?」
苦笑いだった牧夫の顔が、渋い顔になる。いや、見た目には大した違いはない。要するに『渋っている』ということだ。
「良いんだよ。『勝ち過ぎる』のもな、良くないんだ」
「あぁ、『過ぎたるは、及ばざるが何とやら』ですか」
それを聞いた高田部長がズッコケた。頭から湯気を出して、牧夫に喝を入れる。
「そこまで言うんだったら、ちゃんと覚えておけよっ!」
しかし牧夫の方は、高田部長の『沸点』が判らないので、スルーするーだ。
とにかく牧夫は、『888番』を鮫島少尉らが立てこもる『仮本部』とやらに送り出す。
それと同時に、他の機体は後退させ始めた。
開始から三十分も経っていないが、どうやらもう『終盤』の様相だ。そんな薄暮の戦場に、バリケードを自ら破壊した『鮫島小隊』が、勢い良く飛び出して行った。




