ハッカー殲滅作戦(百二十九)
「いよいよ始まりますね」「あぁ。良い『サンプル』が採れそうだ」
戦闘開始の十六時を、今や遅しと待ち続ける人影が二つ。
計器の調整を続ける黒井に、双眼鏡を覗いた黒田が答えた。
本番で相手になる『ブラック・ゼロ』の黒井と黒田の二名だ。
ここまで来るのも苦労したが、ここから先も苦労しそうだ。
「これでマジ『ヤバかった』ら、どうするんですか?」
次の計器の調整に入った黒井が聞く。
「それを『これから考える』んだろうがっ」
「でも、『それでも』ですよ」
「そりゃぁ、お前」
黒田が双眼鏡から顔を外し、手を休めた黒井を見つめる。
「逃げるに決まっているだろう?」
「ですよねぇっ!」
我々は、誇り高き『ブラック・ゼロ』。
どうせ『東京地下解放軍』なんて名前だけ『軍』なのだ。守るのは『国』ではなく『ねぐら』である。
相手が『本気』で攻めてきたら、逃げれば良いのだ。
「そんでもって、次は叩く」
「えっ? やっぱりやるんですかぁ?」
再び双眼鏡を覗き込んだ黒田の決意に、黒井は驚く。思わず『手も止まる』と言うものよ。
「えっ、お前、やらないの?」
再び双眼鏡を外した黒田の顔が、『意外だなぁ』の顔で黒井を覗き込む。そんな顔をされたら、黒井だって黙ってはいない。
「俺だって、『日本の為』だったら、幾らだってやりますよ」
「おぉっ。流石はホンマもんの軍人だねぇ」
「いや、自衛隊は『軍』じゃないんで。まぁ良いか」
「だよな。『逃げる』って言うんだったら、帰りは『一人で帰ってもらおうかなぁ』って思ってさっ」
黒田が双眼鏡を覗いたまま、『ニッ』と笑う。黒井は慌てる。
「ちょっと、待って下さいよぉ。無理ですよぉ」
黒田の『笑い』は、時々本当になるから困る。
「笑ってないで、始まるぞ」「おっとぉ。機器オールグリーンっと」
どうやら十六時になったようだ。作戦が動き出す。
「んん? 何かさっきより、全然速いな」
「なんか、『公証二百キロ』、余裕で超えてますけど?」
レーダーに映る『点』の速さが、尋常じゃない。
「それに、おかしいなぁ」「どうしたんですか?」
双眼鏡を持った黒田が『あるはずのもの』を探している。
「『隊長機』が居ないんだよ。どこにも」「えぇ?」
黒井はモニターを監視していた。すると『隊長機』らしきものを発見する。思わず叫んだ。
「なんか『スネーク』みたいなのが。いやこれは『コブラ』か?」
すると、『今日の晩飯』と思った黒田が、パッと振り返る。
手には、いつの間にか『ナイフ』を握り締めていた。




