ハッカー殲滅作戦(百二十八)
「良いか、戦闘が始まったら『コブラ五匹』が背面を突け」
「高田部長、『コブラ』って何ですか?」
富沢部長が振り返って聞く。朱美は『ベータ版のマニュアル』をひっくり返し始めた。
「三機のミントちゃんが『密集隊形』で壁を作りながら、後ろに五機が『スネーク』のようにピッタリと付く。だから『コブラ』です」
渋い顔をする高田部長の代わりに、説明をしたのは牧夫である。段々『ホーク』らしくなってきた。
「背面って、どこを? 誰を攻撃するんですか?」
すると高田部長が溜息をつく。ちらっと牧夫の方を見たが、奴にもその意味が判っていないようだ。
仕方ない。奴は『戦闘』を経験していない『甘ちゃん』なのだ。
「衛生兵だよ。衛生兵。怪物の奴らを、先ず潰すんだよっ」
「えっ? そんなことして、良いんですか?」
「良いも悪いもないだろうよぉ。強い奴から潰すんだよっ」
「でもぉ。赤十字って、狙っちゃいけないんですよねぇ?」
「誰が『赤十字』って言ったぁ。奴らは不死身のゾンビだぞ?」
言われた全員が目で『高田部長』と言っている。
「じゃぁ、今回の『演習相手』は、誰なのぉ?」
「日本陸軍です。よね?」「ちぃがぁうでしょおぉぉぉっ!」
一同『シーン』となって、高田部長に注目する。
この男、一体何を考えているのだろうか。
「今日の『演習相手』は指定テロ組織『東京地下解放軍』なのっ」
一同の顔つきが『あっ、そうでした』に変わる。
「テロ組織が『赤十字』のシャツ着てたら、撃たないのぉ?」
とても気分の良いことではないが、反論できる者はいない。
すると高田部長は、自席のコンソールをカチャカチャやると、スクリーンに『屈強な男達の顔写真』を何枚も映し始めた。一同が『不思議そうな顔』をしているが『嫌な予感』もし始める。
何故なら、その顔写真の右下には、全員『赤十字』のマークが映っていたからだ。どこでそんな『名簿』を入手した?
「こいつらが、第一ターゲットだ。開始一分で黙らせろっ」
一斉に手分けして作業を開始する。時間がない。無言だ。
画像をスキャンして、特徴を把握。例え『迷彩』を施していても無意味なように、目の位置、鼻の位置、顔の幅、骨格を登録。
そして、日本人の平均値から『3Dデータ』を生成して、ターゲットフォルダに放り込む。
ここまで三十秒。もう彼らの『運命』は決まったも同然だ。
開始一分以内に、時速四百キロの『コブラ』が、一斉に食い付いて来るのだ。悪いが『今回の演習』では、遠慮なく逝かせてもらう。
あぁ? 89式? 撃って来いよ。引き金を引く暇があったらな。




