ハッカー殲滅作戦(百二十七)
「ベータ版、全機インストール終わった?」
「まだです。まだ十五機です」
高田部長の問いに、牧夫からの答えは渋い。自動警備一五型に、納品前のベータ版を入れろと言ったのは、高田部長である。
しかし、高田部長からの叱責が飛ぶ。
「何でそんなに時間掛かってんの?」
「いや、こっちから『演習場』までの回線が細くて」「馬鹿か?」
余りにも情けない『回答』に、呆れた声が被せられる。
牧夫は渋い顔になった。その顔は『俺のせいじゃない』とでも言いたげだ。
しかし、高田部長は『無下に貶す』男ではない。
「現地で『伝言ゲーム』させりゃいいだろうよっ!」
「あっ、そうですね」「早くしろっ!」
牧夫は直ぐにコンソールに向かって、カチャカチャやりだした。別に全部秋葉原から、送信する必要はなかったのだ。
「ミントちゃんの高度設定、変えられる?」
「現状の『二十五メートル』からですか?」「そう」
今度は朱美が質問に答える番だ。首を傾げている。
「低くですか?」「逆だよ。高く。高ーくすんのっ!」
「幾つですか?」「もぉぉっ。三百五十よ。判んないのぉ?」
「えっ? そんなに高くして良いんですか?」
それだと『アンダーグラウンドの天井』どころか、航空法の上限『百五十メートル』も越えてしまうではないか。
「申請出してあるに決まっているでしょうがっ!」
流石『法令順守のNJS』である。この訓練に備え、高田部長が行って来た準備は万全である。
今日の分だけではない。訓練実施が決まってから、向こう三年間分の申請を終えている。
いやはや。彼は実に『仕事が出来る漢』である。
「部隊長ミントちゃん全機の最高高度を、三百五十に設定します」
「多過ぎ」「えっ?」「だから、お・お・す・ぎっ」
朱美が振り返って、怪訝な顔をしている。すると高田部長が、右手で三本指を立てて、朱美向ける。
「三機で良い」「三機だけですか?」「そうだよぉ」
不思議そうに首を振りながら、朱美はコンソールに向かって設定変更を始めた。するとそこに、再び指示が飛ぶ。
「ミントちゃんの『リミッターカット』ね。最初から全速力」
「えっ? それは『JPS支援あり』時のみ、有効ですよね?」
今度は富沢部長が振り返った。
「有効にすりゃ良いだぁろぉうぅよぉっ」「判りました」
逆らっても無駄だ。富沢部長は直ぐにコンソールに向かって設定変更をし始めた。
今日の高田部長は『狂ってる』としか、言いようがない。
「高田部長、命令が通りません。拒否されます」
「なんだぁ? まだ終わってなかったのかよぉ。時計見ろぉ?」
右手を屈伸させながら、スクリーン上のカウントダウンを指さした。牧夫は渋い顔だ。残り七分三十秒である。
「でも、インストールするには工場での直接命令が必要で」
「馬鹿かお前はっ! 戦争が始まったら工場も何もねえんだよっ!」
一喝。流石は戦争経験者。言うことが理に適っている。そして、『対策』についても、心当たりがあるようだ。直ぐに指示を出す。
「特権命令があんだろうよっ!」「えっ『自爆命令』ですか?」
確かに『最終的な特権命令』として、拒否できない命令が用意されている。『軍事機密を守るため』のものだ。
「そうだよ。『自爆命令』を書き換えて、全機に食わせろっ!」
牧夫の顔つきが変わった。これでひと安心だ。
高田部長は再び時計を見た。
大丈夫。まだ時間に余裕はある。まぁ牧夫なら、あと十八秒で設定が終わるだろう。ふう。ちょっと休むか。
「高田部長、終わりましたっ」
「はぁy、おせぇよ。十秒も掛かってんじゃねぇよ。向こう手伝え」
「はいっ!」
高田部長は牧夫が向うを向いている間に、苦笑いになって汗を拭いた。そして、再び真顔に戻る。
「良いか? さっきの三機から『JPS妨害電波』出すんだぞ?」
「え? そんな機能あるんですか?」
「今組み込みましたから、メニューの1315です。はいOK」
どうやら牧夫は、とても仕事が速いようだ。




