ハッカー殲滅作戦(百二十六)ミントちゃんの本気
琴坂家の様子を、笑いながら『観察』していた高田部長であるが、今はスクリーンに映し出された軍人、鮫島少尉と真顔で会話していた。
『こちらの準備は整いましたが、直ぐに始めても良いでしょうか?』
穴掘りでも手伝ったのだろうか。汗びっしょりである。しかも、顔まで『本気のペイント』を施した状態だ。
「あのー、今回の実戦訓練は、本番に合わせて、『夜間での実施』だった気がするのですが?」
珍しく高田部長が『正論』を言っている。
『そちらが、『著しく不利』と言うことでしょうか?』
責任者は、『どうしても昼間にやりたい』らしい。
そりゃそうだ。予定外の『全員が人間側参加』になってしまい、暗視スコープの数が足りないのだ。
「それはないのですが、何と言いましょうかぁ」
高田部長は不敵な笑みを浮かべて語尾を濁す。
『何でしょうか。遠慮なく仰って下さい』
このまま開始したい鮫島少尉は、『何かしらの条件』を追加すれば良いと、思っているのだろう。少し穏やかな表情で言う。
しかし、高田部長の答えは、鮫島少尉が考えていた、どの条件とも合致しないものだった。
「えっとですねぇ。夜だったら見えないので、『恐怖』を感じることなく死ねますが、昼だと見えちゃうので、かなり怖いですよ?」
それを聞いた鮫島少尉の表情が、一瞬で強張る。
恐怖だと? 恐怖を感じる訓練など幾つも実施済だ。
やはり『イーグル』と言えでも『民間人』。死ぬ気になった軍人のことなど、知らないのだ。
『問題ありません。我々はもとより『死ぬ気』ですから』
そう言って鮫島少尉は『微笑』に変わった。
すると今度は、高田部長の表情が、一瞬で強張る。
馬鹿なのか? 『本当の恐怖』を体験してしまったら、その後はどう生きていたって『生ける屍と同義』ではないか。
小便ちびるなよ?
「では、開始時刻だけ決めて、無線を切りましょうか」
スクリーン越しの二人が笑顔になった。
『では、ヒト・ロク・マル・マル時、あっ、十六時で』
「承知しました。では、次逢う時は『靖国』ですか?」
訓練で『死亡判定』となった者は、無言で両手を挙げ、訓練場横の『大鳥居』に集まることになっている。
つまり『お前をぶっ殺す』と、言っているのだ。
それを理解した鮫島少尉は、ニヤリと笑って言い返す。
『スクラップヤードからの中継かもしれませんよ? それでは』
互いに敬礼して無線が途切れると、真っ黒になったスクリーンに、時計が表示される。そして、カウントダウンが始まった。




