ハッカー殲滅作戦(百二十五)
監視カメラに映る映像を見ていた男が、マイクを置いた。隣にいる『上官』に相談を持ち掛ける。
「折られたそうですけど」
「怪しいもんだね。『姉様』が、そんな甘っちょろいことを、する訳がないんだよ」
そう言って上官は、左手で画面を大きくするように指示した。
男は、パソコンを操作すると、言われた通りの場所について、映像の一部を大きくした。
「ほらごらん」「はぁ」
「『はぁ』じゃないよっ」「すいません」
「まったく。お前も良く覚えて置くんだな」「はい」
そう言うと上官は、前田の右手を『トントン』と叩く。
「爪も剥がれていないし、折れてさえ、いないじゃないかっ」
男からの返事がない。むしろ困惑して上官の様子を伺っている。
「はぁ。これだから。甘っちょろい世代だなぁ」「すいません」
上官は溜息で若人を責める。しかし、男の方は言い返すこともなく、謝った後はダンマリのままである。
すると上官がマイクを握る。そして一言だけ発した。
『ファルコン!』
すると、前田と後藤が顔を見合わせ始めた。そして、今度はお互いに頷き始める。
しまいには前を向いて、何度も何度も頷き始めたではないか。
上官は溜息をして、マイクを放り投げた。終わった。
「お前、まだ判らないのか?」
「えっ? はい。申し訳ございません」
すると上官は、両手で自分の頭を掻きむしり始めた。
それはまるで『出来の悪い部下のために、自分が殺される』と、思っているように、見えなくもない。
いつも強気な目が、今は完全に怯えている。
「まだ、お嬢さんが拉致られたこと、知らないな」「ですかね?」
「知ってたら、全員ぶっ殺されてるわっ!」「えっ、俺もですか?」
「そうだよっ。『全員』って言ったろっ!」『りふじーん』
上官は両腕を振る程大きな声になって行く。今のは最大出力だ。
「いいか? あれは『ファルコンからのメッセージ』だ」
上官はイライラしながら、つま先をトントン鳴らしている。
「どんなメッセージなんですか?」
男は上官に、恐る恐る聞く。上官は鼻をピクっとさせた。
「『美味しい所やるから、こいつらの組織を潰して来い』だよっ」
「なるほど、判り易いですねっ!」
「だから怖いんだろうがっ! 良いか? 『恐怖』ってのはなぁ、『解り易いこと』が大事なんだっ! 覚えて置けっ!」「はっ!」
男はパッと立ち上がり、上官に敬礼をして走り出した。




