ハッカー殲滅作戦(百二十三)
結局、後藤と前田を『シャキッ』と人型に戻し、お帰り頂くことにしたようだ。可南子は玄関先でペコペコお辞儀をする二人に、『ハイハイ』な顔で頷きながら『口をへの字』にしている。
「どうもすいませんでした」「すいませんでした」「所でさっ」
可南子の一言で、二人は直立不動の姿勢で停止する。
「その壊れた玄関の鍵、いつ直してくれるの? 今夜、どうすんの」
二人は可南子が、不機嫌そうに指さした玄関扉を見る。直ぐに可南子に向き直って、深々と頭を下げた。
「直ぐに手配致します」「誰に?」「それはぁ……」
頭を下げたまま、二人は困惑した顔で顔を見合わせる。
「じゃぁ、こっちで直しとくけど。旦那に怒られちゃうじゃん」
溜息をした可南子が、渋々提案する。
「お願いします」「お手数お掛け致します」
可南子だって、鍵は壊したことしかないのだ。まったく。前代未聞である。
「じゃぁ、修理代は、誰に請求すれば良いの? 旦那怖いのにさぁ」
「それはぁ……」「そのぉ……」
頭を下げたまま、二人は困惑した顔で顔を見合わせる。
『旦那もなのかぁ?』『知らねぇよ。やべぇ家だ』
可南子は呆れて、両手の平を上にあげて溜息だ。
「じゃぁ、右井少尉に『請求書』回しとくからっ。生きてたらっ」
可南子の言葉に、二人はパッと顔を上げると、笑顔で頷いた。
「あっ、それでお願いします」「よろしくお願いします」
と、深く礼をしたところで、今度はパッと顔を上げて気まずそうに顔を見合わせた。それを見た可南子は、鼻で笑う。
「あんた達も『雇われ』なんだろう?」「はい」「はい」
二人は『判ってくれます?』な感じを醸し出して、目で訴える。
『そうなんです。今朝雇われたばかりでして』な顔だ。まぁ、そうなんだけど。
「右井少尉なんて、『小物』も良いとこジャン」
「そうなんですか?」「ですか?」
雇い主をそんな風に言われても、二人は首を傾げるだけだ。何しろ『陸軍士官様』なのだから、結構偉い人だと思っていたのだが。
「全然っ」
可南子は手を振りながら呆れ顔である。そして、言い切った。
「そんなの何人、殺っても、自慢にも何にもならんわっ」
フッと鼻息まで出して、まるで『早く帰れ』みたいな感じで、二人に向かって右手を振った。
二人は遂に『お暇』のチャンスとばかりに、笑顔を輝かせると、もう一度深くお辞儀をする。それでも可南子は、やはり『良いから早く帰れ』と手を振るばかりだ。
「裁判で会ったら、ちゃんと『証言』よろしくねっ」
二人はまるで押し売りに失敗した業者のように、玄関を後にした。
可南子は誰も居なくなった玄関で一人、壊れた鍵を眺めながら玄関扉を閉めると、『裁判って何っ』と呟き、笑った。




