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ハッカー殲滅作戦(百十九)

 可南子は受話器を持ったまま、後藤の目をジッと見ていた。

 きっとガムでも噛んでいれば、クッチャクッチャという音が、周囲に聞こえていたことだろう。とにかく静かだ。

 その間に可南子は、ラップトップの蓋を乱雑に開けると、画面を自分にだけ見えるように配置した。


「あぁ? てめぇの階級は聞いてねぇんだよ」

 電話の向こうは、誰かに代わったようだ。


「良いか。今から質問するから、あんたはそれに答えれば良いんだ」

 そう言うと、向こうも了解したようだ。

 可南子は後藤の目を見ながら、ゆっくりと質問をするつもりで息を吸う、と思った。


「何だぁ? 『ファルコンにちょっかいを出した奴は殺す!』それが約束だったはずだ!」

 急に大声をあげた。しかし直ぐに、静かな口調になる。


「忘れたとは言わせない」

 再び静寂の時が訪れた。可南子はその間に、ラップトップの画面をチラリと見ている。

 すると相手が、今度こそ納得したようだ。気が付いた可南子は軽く頷いて、尚も話を続ける。


「今から言う奴で、殺していい奴を言えぇ」

 すると、聞き易いように、ゆっくりと話し始める。


「731のぉ、石井少佐ぁ、井学大尉ぃ、右井少尉ぃ、井上少尉ぃ」

 そこで一息。しかし、こんなにゆっくり言ってあげているにも関わらず、受話器からは何も聞こえない。


「答えないのかぁ? じゃぁ次ぃ」

 可南子はちらっとラップトップの画面を見て、もう一度後藤の目を見てから質問を続ける。


「33の依井大佐ぁ、あぁ、依井ってあの『ボケ茄子依井』かぁ? 何、あんた知ってんの? おぉおぉ、そうだよそう」

 何だか急に打ち解けて、『昔話』が始まりそうだ。


「随分と出世してんじゃねぇか。そうかそうか。いぃい度胸してんなぁ。んん? いやいや『その節は』って言うんだったら、こっちから直接褒めてやんよぉ。遠慮すんなっ。あぁ、だったらついでに、あと『二階級』逝っとくかぁ?」

 可南子は昔を思い出したのか、大きく首を縦に振りながら笑う。

 しかし、後藤の目からは逸らさない。


「まぁいいや。次ぃ。山岸少尉ぃ、真間少尉ぃ、鮫島少尉ぃ」

 相変わらず返事がない。すると、造った笑顔がたちまち豹変する。


「まだ答えないのかぁ? 答えなかったら全員始末すっかんなっ!」


 ご近所迷惑な大声。すると、受話器の向こうが煩くなったのか、可南子は迷惑そうな顔になると耳から受話器を離し、ちらっとそっちを見た。後藤は何故かそれだけでもホッとする。


「うるせぇっ。こっちは『責任者を出せ』って言ったんだっ!」

「これから調べるぅ? 呑気なこと言ってて、お前ホントに栄えある帝国軍人かぁ? そんなんだから北海道とられんだよっ! 現在進行形である作戦の責任者が『そんなこと』は言わねぇだろっ!」


 再び静かになった。すると、可南子が再び話始める。


「良いか? 誰だか判らなかったら、次は『お前』だからなぁ」


 すると、膝を叩いて急に笑い出した。

「あぁ、そうだったな。おぉ。良いよ。墓標に刻むのに『名無し』じゃ気の毒だもんな。良いぞ。名前と階級、言えよっ」

 そう言うと、ラップトップの画面を見る。


「何だ。随分『小物』だなぁぁ。苦労してんなぁ。お前も」

 名前と階級を、ちゃんと確認できたのだろうか。また膝をバンバン叩きながら笑い始めた。と思ったら、急に静かになる。


「お前の二つ上の上司にこれから直電すっから。恨むならそいつな」


 そう言ったかと思ったら、可南子は一方的に電話を切った。

 そして、今置いたばかりの受話器を上げて、今度はダイヤルの上に被せるように縦にして置く。


 椅子から立ち上がると、ずっと見ていた後藤に向かって、ツカツカと歩き出す。そして、すぐ前まで行くとしゃがみ込み、キスでもするかのように、グッと顔を近付ける。


「お前の上司、酷い奴だな。『処分は任せる』だってさっ」

 そう言うとニヤリと笑う。言われた後藤は、『絶対そんなこと言ってなかった』と思いながら、首を横に振り始めた。

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