ハッカー殲滅作戦(百十五)
「可南子、いつもあんななの? 面白いねぇ」
「知りませんよぉ。初めて見ましたよぉ」
高田部長が笑いながら画面を指さした。牧夫は渋い顔で答える。
「いつもは、大人しいんですよ?」「猫被ってるんじゃないのぉ?」
本部長と高田部長は、可南子が来た『経緯』を知っている。
昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが居た時代。
本部長と高田部長は、破壊工作担当である『大佐の配下』だった。
民間から『専門職』として『強制徴用』されたのだ。
そして、作戦遂行中に『捨て駒』として利用され、作戦は見事成功したものの、二人は散々な目に遭った。
生還した二人をその後図々しくも、大佐は『便利な道具』として使いこなしていたのだが、いい加減ぶち切れた二人は、大佐の娘を『逆人質』にすると、ちゃっかり作戦に随行させていたこともある。
「おっ、また一人追加だぞぉ」
相変わらず楽しそうな高田部長の声に、牧夫からの返事も、応援もない。
画面に映った男は、可南子の前方からやって来た。どうやら二階を確認してきた男のようだ。
最初の男に『お前、何やってんだっ!』とでも言って、トコトコと入って来ると、テレビと可南子の間に入った。
すると可南子は『見えないわねぇ』な感じで、お茶を持ったまま体を傾けると、テレビを観続けている。何でも見えれば良いらしい。
「これ、何見てるの?」「きっと『デカンタ刑事』ですよ」
「ミントちゃん、スクリーンに出せる?」『お安い御用です』
いつもチェスが映っている一番右のスクリーンに、小さいテレビ画面が表示され、そこに可南子の様子が並べて表示された。
「あぁ、もう直ぐ終わりですね」「残ねーん。これからなのにぃ」
牧夫の説明に、高田部長が呟く。
すると確かに、どうやらエンドロールが始まったではないか。
「え? 何? 何ぃ?」「あぁ、踊るんですよぉ」
スクリーンに映った可南子は、羽交い絞めされたまま、笑顔で立ち上がった。そして出演者が、エンドロールに合わせて踊り始めると、ピッタリと追従して踊り始めたではないか。これは相当だ。
「キレッキレじゃん。すごいねぇ。いつもこうなの?」
「ええ、機嫌が良い時は、だいたい『これ』踊りますよぉ」
確かに可南子は、物凄く機嫌が良さそうだ。
それでも、前から近付いて来た男については、『邪魔』の一言も『警告』もなく、『振り付けのついで』のように弾き飛ばした。
そのまま両腕を振り上げると、確かに『踊りの通り』に勢い良く振り下ろす。すると振り抜かれた両肘が、後ろの男のわき腹辺りに当たったのだろう。男は大口を開けて、目を白黒させている。
何だか後ろの耳元で『変な雑音』がしたと思ったのだろう。
可南子は振り返ったのだが、『何だ蚊か』な感じで前に向き直ると、楽しそうにエンドロールの続きを踊り始めた。




