ハッカー殲滅作戦(百十三)
「心配ですけど『家への繋ぎ方』なんて、知りませんよぉ」
牧夫は早くも音を上げた。すると高田部長が、直ぐにしかめっ面になる。
「だらしない奴だ。自分の家も、何処だか判らないのかよっ」
『お前に言われたくない』という気持ちを判り易く前面に出して、それでもなお、高田部長に席を譲る。
ここで『うだうだ』言っていたら、また牧夫に戻されてしまいかねない。
「お前んちはな。ココだよっ(タンッ)」
何故か今までで、一番速かった。牧夫は驚愕する。
おいおい。これでは『自宅のセキュリティ』が、無いに等しいではないかっ。それが、よりによって『高田部長』にバレているなんて。
モニターには、妻の可南子がお茶を飲みながら、テレビを観ている姿が映し出されている。
何を観ているのか判らないが、食い入るような目である。
それはそれとして、良かった。どうやら『誰だか知らない敵』は、ココが判らなかったに違いない。安心だ。
今日は優輝の奴、『帰宅部の合宿だ』とか言って、出掛けて行ったし、琴美も『友達と夜遊びだ』と言っていた。
奴らも、もう子供じゃない。何処まで行っちゃったのか知らないけれど、その内帰ってくるだろう。
だから、可南子が一人で留守番している所に『招かざる客』なんて、考えただけでゾッとする。
「高田部長。妻は今夜一人なので大丈夫です」
家の中をカチャカチャ覗かれまくられても困る。早々に退散して欲しい。
「えぇ? だったら、もしかして『男』呼んでいるかも?」
悪戯っぽく笑った高田部長が、じっとスクリーンを見たままで動く気配がない。
「妻に限って、それは大丈夫ですからっ」「わかんねぇぞぉ?」
何が判るのやら。しかし牧夫は渋い顔をするだけで、言い返せない。
「牧夫ん家、田舎だからさっ、時間掛かっているだけかもしんないだろぅ?」
「通勤時間、何分なんですか?」
急に朱美に聞かれて、牧夫は口を尖らせた。
「ドアツードアで、百二十分?」「えっ、遠っ」
「乗り換えがスムーズだったら、もっと速いですよぉ」
「おいっ、やっぱ遠かったんだよっ」
笑顔の高田部長が、笑顔で振り向いた。するとそこには『屈強な男が一人』現れたではないか。
「可南子っ! 逃げるんだ!」
もう遅い。それにどの道、声は届かない。
それよりなにより、可南子はまだ、テレビに夢中である。




