ハッカー殲滅作戦(百十二)
「早く消防車呼ばないとっ!」
牧夫が宮園課長の部屋を見ておののく。みるみる内に、燃え尽きて柔くなった何かが倒れた。
その瞬間映像が乱れる。どうやらカメラにヒットしたようだ。
「何だ。お前が点けたんじゃないのかっ?」
高田部長がニヤニヤしながら言う。全くもってこの男は、不謹慎極まりない。
「違いますよっ! 何言ってるんですかっ!」
人聞きの悪いことを言う。そう思って高田部長を睨み付けた。しかし、どうやら分が悪い。
『どちらが正しいことを言っているのか』の判定は、高田部長の方に軍配が上がるようだ。
流石『部長』の肩書は伊達じゃない。
「違いますよっ! それより『ひゃくとお番』しないとっ!」
やはり『牧夫の言うことは信用できない』に、ミントちゃんまで投票したようだ。
スクリーンの『投票結果』が、ピコンと更新されたからだ。
ちょっと言い訳がましいが、牧夫は高田部長の顔を見た瞬間、『この顔に、ピンときたら百十番』を思い浮かべてしまっただけだ。
やはり普段から、そんないけ好かないことを考えているから、いざと言うときに『信用』と言うものを失っていくのだ。
「『ひゃくとお番』って、何番ですかっ?」
もう駄目だ。完全に信用を失っている。呆れた三人が『その席から去れ』と目で訴えている。
そもそも、何のために覚えやすい番号にしたのか。これでは、全く意味がないではないか。電話交換機に謝れ。
「ミントちゃん教えてっ!」
やっぱり人間は信用できない。牧夫はそう思っていた。
いつだってそうだ。人は常に裏切って来る。
『イチ・イチ・キュウ番です』
ほらね。機械は裏切らない。やっぱり最後まで『信頼』できるのは、機械だけだ。
牧夫は『冷たい奴ら』を、ギロリと睨んだ。
そして『通常メニュー』にはない『裏メニュー』の中から、六十三番の『緊急連絡用赤電話』機能を呼び出そうと、キーボードを物凄い速さでカチャカチャ鳴らし始めた。
幾つものパスワードも何のその。軽々と突破して行く。
「所で『お前ん家』は、確認しなくて良いの?」「あっ?」
高田部長の声に、牧夫の手がピタッと止まった。そして、スクリーンに映し出されている『そろそろ全焼でーす』の風景と、コンソール画面を何度も見比べる。
「宮園課長は一人暮らしだよな?」「あっ!」
それでもエンターキーを押し掛けた手が、また止まる。
「何? お前は『家族』のことが、心配じゃないのか?」
言われて直ぐに周りを見回したが、味方は一人もいなさそうだ。




