ハッカー殲滅作戦(百九)
隣人の他に、本部家の様子を見て笑っている『奴ら』が居た。
おや? 牧夫、朱美、富沢部長の三人が、大慌てで手を横に振っている。
そして、その三人が一斉に指さしたのは。
「ヒッヒッヒッ! 本部長、なぁにかっこつけてんの!」
高らかに笑うのは可愛い後継者、高田部長である。
「笑っている場合じゃないでしょうがっ!」
普段は温厚な牧夫が、ぶち切れている。
「そうですよっ! 先輩で、恩人なんですよね?」
結婚式で世話になった朱美も、常識の無さを疑う。
「一応、あんなんでも、両親なんですけどっ!」
言い方。それに、そんなに怒ってどうした。
あれか? 誕生日ケーキでも爆破されたのか?
それとも、ランドセルに翼でも付けられたのか?
「そうそう! 誕生日ケーキ持って、飛んでたよね! バーン!」
面白おかしく両手を広げて、花火を再現している。
「言うなぁぁっ!」
両方かっ! 笑顔の高田部長にぶち切れた富沢部長が、食って掛かっている。
どうやら本部家では、これくらい『日常茶飯事』だったようだ。
「ミントちゃん、スロー再生してっ。いやぁ、何度見ても笑えるっ」
『三度目のスロー再生を始めます』
スクリーンに『在りし日の本部家』が映し出された。まだ、本部長が電気のスイッチをカチカチやる前だ。
「ほらぁ。良くみてぇ」
笑顔の高田部長が、三人に言う。
言われた方は渋い顔だ。全員が目で語っている。
『いや、だから、これで三度目ですって』
そうこう言っている間に、本部長が電気のスイッチをカチカチやり始めた。
「ほらほらぁ。良く見てぇ」
「見てますよぉ」「自爆ボタンですよね?」「見たくないですよぉ」
三人が口々に言う。だから三度目だと。その途端、高田部長は渋い顔になったではないか。
「朱美、読唇術、使えたよね?」
「え? ええ。何で知ってるんですか?」
履歴書の『得意技』欄でも見たのだろうか。気持ち悪い人だ。
「それはいぃからっ。ミントちゃん、アップにできる?」
『お安い御用です』
するとスクリーンに『映画のオープニングタイトル』が現れた。
著作権の都合で詳しくは書けないが、『大波』とか『吠えるライオン』とか、そういう奴だと考えて頂ければ良いだろう。
高田部長が『それは要らん』と、突っ込みを入れる前に、パッと映像が切り替わった。
『(くるりん)3。(くるりん)2。(くるりん)1』
一秒毎に回転する円の中、数字がカウントダウンして行く。
始まった。最初に現れたのは『本編の主人公』である。しかしそれは、本部長の『怖い顔のアップ』だった。
ちょっと小さい子には、インパクトが強すぎる。要注意だ。
「えーっと、『あ・と・は・た・の・ん・だ・ぞ』ですか?」
「酷い! やっぱり、死んじゃうんじゃないですかぁぁっ!」
富沢部長のビンタが空を切る。
避けたのか? 違う。そうじゃない。高田部長は、もっと『刺激の強い攻撃』の方が好きだ。
「続きを見てよぉ」
セクハラにならないように、富沢部長の肩を抑えて攻撃を阻止している。まぁ、足蹴りくらいは許そう。
それにしても『本編』は、まだ続いているらしい。すると場面転換があって、次は玄関横になった。富沢部長は思い至る。この目線は、まるで高田部長から贈られた『モナリザ』から見ているかのようだと。勿論、複製画である。
「『き・よ・う・こ・を・た・の・ん・だ・ぞ』奥さんですか?」
「ママ、あれで生きてるのっ?」
朱美が口にした片言の日本語を、富沢部長は直ぐに理解したようだ。攻撃を停止して、映像を見始めた。
すると今度は映像が玄関を出た所になる。はいはい。これは『酔っぱらってレコード店から持って帰って来た奴』ですよね?
ジロリと高田部長を睨んだが、それは知らんぷりだ。
『み・ん・な・の・た・す・け・を・ま・つ・て・い・る』
それを聞いて笑顔になったのは、残念ながら、今度も高田部長ただ一人だ。その後ろでは、エンドロールが始まっている。
しかし、『ミントちゃん』の羅列を観る者は、誰も居なかった。




