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ハッカー殲滅作戦(百八)

 近所で本部家は『おしどり夫婦』として有名だ。

 いつも腕を組んで歩く『仲良しな様子』を、良く見かけることができる。旦那は大手企業で偉い人らしい。


 だからだろうか。休日には良く客人が来ているようだし、庭でバーベキューなんかも良くやっている。

 すると、大して煩くもしていないのに、奥さんが『昨晩はすいませんでした』と、謝って歩いている。

 近所でも腰が低いと、評判なのだ。別に、そんなの『お互い様』なのに。いっつも遠慮してばかり。


 だから『結婚記念日』の演出も、毎年のことだ。

 大きな『パン! パパン!』と、まるで火薬の炸裂する音が鳴り響いて来たとしても。

 お隣の夫婦は、お茶を飲む手を止めたりはしない。


「あぁ、今年も始まったかぁ(ズズゥ)」

「そのようね。仲良しねぇ(ズズゥ)。おいしっ」

 少しテレビの音を大きくして、やり過ごすだけ。そんな日常の風景がそこにある。


 しかし、部下を全員なぎ倒された隊長は、京子を人質に取ったまま慌てていた。

 まるで『自爆装置』のような電子音が鳴り響いたと思ったら、突然火薬の炸裂する音が耳をつんざく。


 しかしそれは、大量のクラッカーが弾け飛んだ音だった。一体、どこに仕掛けられていたのか。今となっては判らない。

 すると丁度前方に、白い幕が『シュトーン』と落ちて来て、何かと思ったら、それは『スクリーン』だった。

 思わず京子から手を離し、確認のために歩き始める。

 その時だった。突然大音量で花笠音頭が掛かり始める。そして、スクリーンに『若かりし頃の京子』が、花笠音頭を華麗に踊る様が映し出されたのだ。

 ちょっと見惚れてしまったのは、言うまでもない。


 するとスクリーンに、大きな字幕が現れる。

『結婚記念日おめでとう』

 何だこりゃ。隊長は思わず振り返って京子の方を見た。


 するとそこには、嬉しそうにする京子の姿が。太鼓の音頭に合わせて、拘束されたままの不自由な体を揺らしている。

 その凛とした姿は、隊長には不思議と、それは見事な『花笠踊り』に見えたのだ。幻ではない。京子のソウルがそう魅せている。


 それでも『これが見納め』と悟ったのだろう。京子は突然、涙を流し始めた。しかし、両手は縛られたままだ。

 流れる涙を拭くことも出来ず、懐かしい自分の姿が、涙でぼんやりとして行く。脳裏には、この後屋台を梯子して楽しんだことが、想い浮かんでいたことだろう。

 それでも、真っ直ぐにスクリーンを見つめる続ける京子の姿が、そこにはあったのだ。


 微かに聞こえて来た『ピピピ』という電子音に、隊長は気が付いた。今まで、太鼓の音に掻き消されていたのだろうか。

 すると京子が目を閉じて、上を向いた。電子音のリズムが変わる。

「止めろおぉぉぉぉぉっ!」

 隊長は思わず叫んだ。それでも、電子音は鳴り止まない。

『ピィィィィ』

 隊長が最後に聞いたのは、連続して鳴る電子音だった。


『ドッカーン!』(グラグラグラッ)


 お隣で大きな音がして、雨戸に何か叩き付けられたようだ。

 お茶を飲んでいた隣人の夫婦は、湯呑をテーブルに置いた。


「おい。今年の本部さんちは、『演出』が派手だなっ」

「またぁ、『ニトロの量』、間違えたんじゃないですかぁ?」

 夫の驚きに比べ、妻の分析は冷静だ。笑って右手を振っている。


「あぁ。そうかもなぁ(ズズッ)あちっ」

 納得して、再びお茶をすすり始める。

「そうですよぉ。明日奥さん来ますよ? (ズズゥ)おいしっ」

 隣人は余裕の表情で笑っていた。雨戸はちゃんと閉めてあるし。補強も済んでいる。

「お茶熱かったら、お水足します?」

「良ぃよぉ。濃いのが好きなのに、薄くなっちゃうじゃん」


 呑気な会話が続いている。しかし、妻の方は判っていた。


 きっと明日には『アフロヘアー』になった京子が、『どうも、この度は、ご迷惑をおかけしましてぇ』と、手土産を持ってやって来るのだ。楽しそうに右手を髪に添えて。


 いつものことだ。夫婦は笑って頷いた。

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