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ハッカー殲滅作戦(百七)

 本部長ペンギンは立ち止まり、京子の方に振り返った。

 すると隊長が、京子のこめかみに当てていた銃口を、更にグリグリとし始めた。

 まるで『早く行け』とでも、言っているかのようだ。


 すると、発砲して熱くなっていたからだろうか。それとも、夫が振り返ったのが判ったのだろうか。

 とにかく、京子が目を覚ましたのだ。


 キョロキョロと周りを見渡すと、何人もの男が倒れているではないか。しかも、一人は血を流している。


「ムームー」

 目を見開いて、倒れているに違いない夫の姿を探し始めた。

 なってこった。私がしっかりしていないばっかりに。こんなに散らかってしまって。

 今日は訳あって、ちょっと早目の結婚記念日だと言うのに。


「京子っ!」「ムムムー」

 聞き慣れた声に、京子は直ぐに反応した。バタバタして助けを求めるが、夫にその気はないようだ。

 まるで、諦めてしまったかのような、寂しい笑顔ではないか。


 夫は、昔から凄く優しくて、そして、物凄く強かった。

 今まで散々助けて貰っていたのに。この年で、こんな日に、戸締りも出来ず、ごめんなさい。『お早いご帰宅だ』と嬉しくなって、よく確認もせず玄関を開けたのがいけなかった。


 最初は『顔が怖い』というだけで、簡単に振ってしまって、ごめんなさい。怖いのは顔だけで、全然優しい人だった。

 そうだ。大学の文化祭で『瓦割り演舞』に、凄く丈夫な三州瓦を用意してしまって、ごめんなさい。『二十枚行けるっ』って言ったの、孝雄ちゃんじゃなくて、実は私です。


「ぐずぐずするなっ!」

 もう一度こめかみに『熱い何か』を突き付けられて、京子は思い出す。そうだ。自分は人質だった。だめだ。この人は気が小さい。


 そう思いながらも京子は、北海道へ出征する夫を抱きしめて『死ぬときは一緒に死のうね』と言ったことを思い出す。それが今だ。


 すると本部長ペンギンも、京子の穏やかな笑顔を見て、同じ思いだったのだろう。運転手を待たせたまま、リビングの『電気スイッチ』を、パチパチと操作し始めた。


「何をしているんだっ! 早く行けっ!」

 隊長は叫ぶだけで、銃も突き付けられない。書道三段の運転手は、車に引っ張って行くこともできない。

 そのまま本部長ペンギンが、電気スイッチをパチパチし続けるのを、ただ眺めているしかなかった。


『ピピピピピピィィィィィ』

 突然、リビングに電子音が流れ始める。何かのスイッチがONになったのだろう。

 すると本部長ペンギンは、今まで見せたことのない穏やかな笑顔になり、京子に手を振ってリビングを出て行った。

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