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ハッカー殲滅作戦(百三)

「野郎! やりやがったなっ!」

「こらっ! 追うんじゃないっ!」

 咄嗟に動き出した隊員がいた。銃を持った隊長が、それを制止する。しかし、仲間をやられて黙っていられなかったようだ。


「トリャァァッ!」

 大声で奇声を上げると、制止を聞かずにパックリと開いた暗闇に飛び込んで行ってしまった。


 リビングは静まり返っていた。それっきり、何も音がしない。


 何かが倒れる『ドスン』とも、何かが壊れる『ガチャン』とも、そして、もちろん『ギャー』とも、『グェー』とも。


 残された隊員達は、思わず身構える。

 話には聞いていたが、それでも、いきなり二人やられたのだ。もう、死んだのかもしれない。

 いや、死んだと思っていた方が良い。そんな『甘い奴』ではなかったのだ。まだ『どんな奴』かも、見えていないと言うのに。


 パックリと開いた暗闇に、一番近い隊員と二番目に近い隊員が、目でやり取りしている。


『ちょっと見て来いよ』『嫌だよっ』

『お前が正面から。出て来た所を俺が裏から』『絶対に無理だよ』

『イイから行けよっ』『そんなに言うならお前が行けよっ』

『お前の方が正面だろうがっ』『動かないのが作戦だろうがっ』


 埒が明かない。それでも二人は油断なく身構えたまま、すり足でジリジリと、間を詰めている。


 二番目の隊員が軸足に体重をグッと乗せ、いつでも攻撃ができる準備が整った。それを目で伝える。

 暗闇から出て来たら、それが奴の最後だ。『かならころす』と書いて『必殺ひっさつ』と読む、この『真空飛び膝蹴り』で、ノックアウトさせてやる。


 一番近い男がしぶしぶ『判った。頼むぞ』と頷いた。

 もう『相棒』は、出て来た所を捉えるために、集中しているのだろう。既にこちらを見てはいない。

 仕方ない。暗闇の向こうを、ゆっくりと、ゆーっくりと、首を伸ばして覗き込んだ。


 そのときだった。突然、反対側のドアが開いた。


 いや、正確には『開く』と言うより、蝶番が壊れて『前に倒れた』の方が正しいのだが。

 それにしても、それは『突然』のことだった。


 本部長ペンギンが、吹き飛んでしまったドアの後ろから、まるで『ロケット』のように飛んで来たのだ。

「グェッ!」

 暗闇に一番近い男はその勢いに押され、『人間ってそっちにも曲がるんだぁ』という、まるで『ぎゃくくの字』の形となって、暗闇に吸い込まれて行った。


 それを一番近くで見た二番目の男、別名『シン一番の男』は、素早く反応した。かに見えた。


 しかしそれは、隊長から見て『目が動いただけ』であり、他の隊員からはその目の動きすら、見えていなかった。


 見えていたのは、本部長ペンギンの短い脚が、残像を残して振り抜かれたことだけだ。

 改名したばかりの一番目の男は、それを自覚することもなく、側頭部を踵が直撃して、表情が吹き飛んだ。


 他の隊員が、その場で固まっている。何だ? この男は?


 きっと、後ろにも目があるに違いない。不幸にも、本部長ペンギンに一番近い男と、二番目に近くなってしまった男が、目で示し合わせている。


『お前が行けよっ』『ふざっけんなっ』

 どうも埒が明かないようだ。その間にも、当の本部長ペンギンは、背中を向けて歩き続けている。

 そして、今蹴り倒した男の傍に立つ。そして、グッと睨み付けたかと思うと、躊躇なく右足で『ダンッ』と首の辺りを踏み抜いた。


 リビングが静まり返る。耳を澄ませば、柱時計の『カチカチ』が聞こえたかもしれない。


『ボーン! ボーン! ボーン! ボーン!』

 丁度四時になったからだろう。柱時計の鐘が鳴り出した。

 いや違う。振り返った本部長ペンギンの表情から見て、それは『これで四人だ』と、言っているようにしか、聞こえない。

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