ハッカー殲滅作戦(百)
宮園課長は『彼なりのプラン』を立てていた。
それは、自分が薄荷飴のトップになって、皆を率いて行くことだ。
いや、ちょっと違う。先ず、この『薄荷飴』を変更したい。出来れば今直ぐに。どうして『ハッカー』を『薄荷』に訳した? 違うだろっ! どこに行っても『噂』は耳にする。
『知ってる? NJSに凄いハッカー集団がいるの?』
『あぁ。知ってるよ。薄荷飴だろ?』
『そうそう! それっ! すっごい名前だよなぁ』
『だよなぁ。一体、何やってんだろうな?』
『やっぱ、「ハッカ飴」造ってるんじゃね?』
『ハッカーだけに? てかぁ』『ハハハッ』『ぜってぇ嫌だぁ』
そうじゃねぇだろうがっ! こっちが『正解』だろっ!
『知ってる? NJSに凄いハッカー集団がいるの?』
『あぁ。知ってるよ。サイバー・アドベンチャーズだろ?』
『そうそう! それっ! どこでも侵入できちゃうんだって?』
『侵入できないシステムはない。らしいぞ?』
『すげえなぁ』『だよなぁ。一体、どんな奴がメンバーなのかな?』
「おいっ! 宮園武夫! お・ま・え・だ・よっ」
「なぁ? 俺だよっ」
自分を指さしてにやけた。すると、朱美と富沢部長が渋い顔でこちらを見て、顎を振っている。
『早く行けっ。このデブ!』『ぐずぐずすんなっ。このデブ!』
無言の圧力を感じて、宮園課長は振り返る。
「何すか? 高田部長」「飲み物買って来い!」
「牧夫の役でしょぉ?」「今、大事な話中っ」
「じゃぁ、今、大事な仕事中っ」「それより大事っ!」
「こっちは、そっちより大事っ」「そっちより大事大事っ」
「そっちの十倍大事っ」「じゃぁ、ニゴロゲッツー倍大事っ」
「意味判んねぇよっ!」「良いから、早く行って来いよっ」
宮園課長は、嫌々立ち上がった。余りにも理不尽だ。どうして『高田部長』が上役なのか。
それに、本部長は論外だ。まぁ年だし。じき引退だろう。後継者は、どうせ富沢部長を指名するんだろうが、そうは行かない。実力は俺の方が上だ。
山崎朱美は出向者だし論外。そもそも出向者を『極秘プロジェクト』に入れるなっ。馬鹿なのか? それとも阿保か?
はぁ。俺がいるから、何とかなっているのに。
宮園課長は通路に引っ掛かりながら、ブツブツ考え事をしていた。本当に困った連中だ。
ちらっと見えた牧夫は、こき使うのに丁度良い。まったく。こういうときに『出番』だろうがぁ。
ホント。コンピュータしか使えない奴。しょうがねぇなぁ。
「ミントちゃん、開けてっ! 早くっ!」
『漏れそうなんですか?』「違うからっ!」
ジロリと高田部長の方を見る。どういう教育をしているんだ。どう見ても『教育の方向』が間違っているだろうがっ。
「あぁ、俺、コーヒーね。ブラック」
注文を聞いていると思ったのか、高田部長が答えた。
「俺もヨロ」「私、紅茶にして。無糖の」「じゃぁ、イチゴ牛乳で」
ふてぶてしく牧夫が注文したものだから、富沢部長と朱美も、注文を重ねて来やがった。
こういうときだけ『一体感』を出すなっ。
「はいはい。皆さん『どくだみ茶』ですね。判りましたっ」
シュっと開いた扉。勝手な注文を勝手に切り返して、宮園課長は歩き出す。そうだ。自席であずきバーでも食うか。
薄荷乃部屋は、セキュリティ対策が施されている。だから扉も二重である。
外へ出るには、後ろの扉が閉まってからでないと、前の扉が開かない。宮園課長は前を向いたまま、後ろの扉が閉まり、そして、前の扉が開くのを待っていた。
「宮園課長!」
高田部長の声がして、宮園課長は首だけ回して振り返る。それは、聞き慣れない『コードネーム』だったからだ。
「なんすか? 高田部長!」
宮園課長は言い返す。すると、目の前に高田部長が来ていた。いつの間に? 宮園課長は驚き、全身で振り返る。
「今度、『清掃業者』、紹介してくれ」(パシューッ)
宮園課長の前に扉が現れて、高田部長の『にやけ顔』が見えなくなった。続いて赤色灯が点き、『ビーッ』と鳴り始める。
『宮園武夫さんは、薄荷飴を除名されました。コードネーム「アルバトロス」を消去します』
「えっ何っ? ミントちゃん? (パカンッ)うわあぁぁぁぁー」




