ハッカー殲滅作戦(九十八)
「突入!」(バキバキッ! ダンッ!)
鍵を壊して侵入する。隊員達が一人づつ流れるように玄関を入ると、靴を履いたままズケズケと上がり込む。
玄関から廊下があって、すぐ横にあるのはトイレか。中の電気は消えているようだ。
部隊の先頭を行く隊員が廊下を曲がった頃、最後の隊員が外を確認し、誰もいないことを確認して玄関の扉を閉めた。
前がつかえているので、ゆっくりと家に上がり込む。
その頃先頭では、半透明のガラス扉を見つけ、慎重に中を覗き込んでいた。そこはリビングのようで、テレビなんかもあって、特に罠もなさそうだ。
いやいや。扉のノブに電流が走っていたりして? チョンと触って感電したとアピール。それを見ていた隊員が驚いている。
冗談だ。何でもない。振りだけだと、おどけて見せたのだ。
口だけで『馬鹿』と言っている。言われた方も苦笑いだ。今度はガッチリとノブを握り締めて捻った。
そのときだった。不意に足元の床が無くなり、ストンと落ちる。
廊下にいた全ての隊員が暗闇に飲み込まれて、再び廊下は静けさを取り戻した。
その一部始終を、高田部長は観察していたのだが、溜息をして少々不満げだ。
それは、鍵の修理と床の掃除を自分でしないといけないからだ。
「ちっ。また残業かよぉ」
『管理職にそんな概念はありません』
警告は解除され、ミントちゃんも安心したのだろう。冗談を返すくらいに落ち着いたようだ。
「だよねぇ。牧夫が羨ましいよ」
両手の平を上に上げて、肩を竦めた。
『琴坂主任さんも、今は課長です』
牧夫の苗字に『主任』が付いて、誤登録されたままだ。誰か直してやれよと、言う訳もないか。
「あぁっ、忘れてたよぉ。ちぇえぇっ」
つまんなさそうに、背もたれに寄り掛かった。
本当に忘れていたのだろうか。もし、本当に忘れていたとしたら、もう一度課長に昇進して、昇給もあり得るかもしれない。
『残業代で奢って貰おうと、思っていたとか?』
「そうっ! それよっ!」
ヒュッと出て来て同意する。反省もない。とんでもない奴だ。
『酷いですね。自分で昇格させておいて』
「そうだっけ?」
『そうですよ? 変な時期でしたけど』
ミントちゃんは、随分社内の事情にも詳しいようだ。高田部長は腕組みをして考えていたが、目がキラリと輝いた。
「あぁ、思い出した! 予算カットで、仕方なくだった」
『それも酷い理由ですね』
ミントちゃんに眉毛があったら、八の字だったろう。
「そんなことより、誰が漏らしたか判った?」
『社史編纂課で、陸軍のトンネル会社に『清掃』を依頼しています』
高田部長はそれを聞いて直ぐに『掃除』を決意した。




