ハッカー殲滅作戦(九十五)イーグルの死闘
司令官席のディスプレイに『見慣れぬアラート』が表示された。
それを見た高田部長は即座に反応する。いつもの仕事ぶりからは、とても信じられない速度でキーボードを叩き始めた。
忘れていたが、彼も『ハッカー』だったのだ。
詳細を表示する。どうやら『今までにない緊急事態』のようだ。
人工知能三号機の報告によると、それは『四ツ谷の朱美ちゃんがピンチよっ』なのである。
この『四ツ谷の朱美ちゃん』とは隠語で、本当は人工知能三号機の『バックアップセンター』である。
それは、高田部長にとって『本妻』を意味する。
血の通った人間として見たとき、同じくらい大切かだって?
それは知らない。何しろ高田部長は秘密主義。結婚指輪もしていないし、会社に扶養家族の申請もしていない。
むっつりスケベかもしれないし、夜な夜な『お姉ちゃんのいる店』に通っているかもしれないのだ。
他のハッカー達に悟られないように、高田部長はミントちゃんと会話を始めた。
「カメラの様子、出して」
司令官席の画面一杯に、分割された監視カメラの映像が流れる。そこには『完全武装』の軍人が映っていた。
既に入り口の鍵を破壊し、中に侵入したようだ。アラートは、その鍵が壊れたことを示していた。まだ侵入してから十五秒だろう。
すると、入り口のカメラから人影が消える。廊下の角を曲がって行ったのだ。
しかし心配ない。次の監視カメラに、今度は正面から映っている。
ハンドサインで『お前はあっち、俺はこっち』とやっている。
「手慣れてやがるな。何者だ?」
『現在照会しています』「早くね」
高田部長が急かしても、ミントちゃんからの返事はない。しかしそれは『本人』が、一番良く判っているだろう。
『ちょっとは手伝って下さい』「甘えんなっ」
ミントちゃんからの『切実なお願い』を、秒で断る高田部長。しかしそれでも、ミントちゃんからの信頼は厚いのだ。
「731、探してみ?」『判明しました。右井少尉の部隊です』
照会が物凄く速い。流石は『コンピュータだけがお友達』のミントちゃんである。しかし高田部長は首を捻る。
「そう? 『石井少佐』じゃなくて?」
『はい。同郷の『右井少尉』です。間違いありません』
溜息をつく高田部長。ミントちゃんは『口臭』を我慢しているのか、無言だ。
「何だぁ。小物じゃーん」『そうですね』「じゃぁ、遠慮なくっ」
両腕を回転させて肩を揺すり、キーボードに手を添えた。
『黒い天使の降臨ですね?』
「その名前は止めろっ」
高田部長はニヤリと笑った。




