ハッカー殲滅作戦(九十四)
「随分ちっちゃくなっちゃいましたねぇ」
笑顔で本部長に話し掛けているのは、赤坂見附口のゲートを守備している責任者だ。
「そうなんだよぉ。変な奴らに襲われてしまってねぇ」
本部長も椅子に座ったまま、和やかに答えている。結構大きな音が、鋼鉄製のゲートの向こうから聞こえてきたが、それを親指で指さしている。
責任者はそちらを見て深い溜め息をすると、呆れ顔で本部長の方に視線を戻して来た。
「白い悪魔にですか?」
それは、函館奪還作戦後に付けられた異名だ。
「おいおい。その名前はよしてくれよぉ」
目を剥くと、照れ臭そうに本部長は笑顔で腕を振る。
「じゃぁ『本吉さん』ですかぁ?」
悪戯っぽく笑いながら、責任者は問い掛ける。
「おいおいっ。何で『その名前』を知っているんだ?」
すると今度も本部長は目を剥くと、軽く責任者のお腹を小突く。
「いててっ暴力反対!」「そぉんなに強く、やってないだろぅ?」
笑顔でじゃれ合う二人。まだお互いを小突き合っている。
どうやらこの二人は、とても仲良しのようだ。それ所か、周りの兵士も『しょうがねぇなぁ』と、暖かく見守っているではないか。
それもそのはず。何故なら、赤坂見附口の守備は、NJSと同じ系列の『吉野財閥自衛隊』が委託を受けて、担当しているのだ。
毎月の『合図変更』と『お土産』を、本部長は欠かしていない。
それに、アンダーグラウンドの『異常個所について点検した月例報告書』を、代筆してあげているのだ。
「すまんが、ちょっと充電して貰える?」
椅子の後ろにある小さなバッテリーを本部長が指さした。責任者は頷く。
「あぁ、良いですよ。おい田中ぁ。宜しく頼むなぁ」
「承知しましたぁ」
嫌な顔をすることもなく、平然と部下に指示をしている。頼まれた方の部下も、にこやかに作業を始めた。
「このままお帰りになるのですかぁ?」
一応充電はしているが、責任者が心配そうに聞く。
「あぁ、そのつもりだ。どうして?」
本部長にしてみればこれが普通なのだが?
「ご自宅は近いのですか? 何だったらお送りしますよ?」
電池切れの心配か。納得して本部長は頷く。振り返って充電量を計測する田中の手元を覗き見る。十分だ。
「あぁ、ちょっと遠いけど、バッテリーは持つと思う」
「そうですか。じゃぁ」
笑顔の本部長の顔を拝んだら、納得せざるを得ない。
それでも、まだ心配ごとだろうか。頷きながらも責任者は、自分の鉄兜を脱ぐと本部長の頭に乗せた。
「では、安全運転でどうぞ」「ありがとう!」
あご紐を揺らしながら、椅子が軽快に走り出した。




