ハッカー殲滅作戦(九十三)
DB2の椅子まで、防弾にしておいて良かった。
今頃、本部長はそう思っていたかもしれない。しかし、そもそも車で疾走しながら、上方の敵を撃つのは難しい。
まして左右に動く椅子を狙うには、まだ距離がある。
すると、正面のゲートからサーチライトの強い光が、椅子を照らし出した。そのときだ。
『パンパーン』
DB2のクラクションが鳴る。椅子に、そんなものが付いていたのだろうか。随分と用意が良いものだ。
それに、ライトまでカチカチさせている。いや、流石にカチカチではなく、手でライトをチラチラと隠しただけだ。
それでも『意味』は通じたらしい。ゲートが開き始めた。
「おいっ! 逃げられるぞっ!」「何で開くんだよっ!」
それもそうだろう。そこには、一号車の連中には、とても信じられない光景が広がっていたからだ。
そもそもアンダーグラウンドの出入口は、軍による『厳重な審査』がある筈。それは、例えゲートを守っているのと同じ『陸軍』が来ても、例外ではないのだ。
それなのに、一体。イーグルは何をしたのだろうか。
とにかく、ゲートは上がり続けている。運転手は焦っていた。
『後ろのバイク! 停まりなさい!』
今度はスピーカーからの大音声。それにしても、ライトが一つだけだから、勘違いしたのだろうか。
直後に、椅子から一号車に対してサーチライトが切り替わる。
「くそっ! 眩しい!」「構わん! 走り抜けろっ!」
手で目を庇いながら、ゲートの方を覗き込む。そして、ゲートの上がって行く速度と、ゲートまでの距離を目測で測る。
大丈夫。通過出来る。例え天井が吹き飛んでも通ってやるっ。
『黒のSUV、止まれっ! 撃つぞっ!』『ダダダッ。ダダダッ』
重低音が鳴り響き、一号車の横でアスファルト飛び散って行く。
「馬鹿っ! マジもんの重機関銃じゃねえかっ!」
「もう撃って来やがったっ!」
そんなのに撃たれたら、自動車の鉄板なんて紙同然だ。
それでも、あと少しなのだ。走り続ける椅子まで。名前も知らないが、仲間の仇も取りたい。成功報酬だって、受け取りたい。
「同じ『陸軍』じゃないかっ!」
運転手が叫んだが、肉声では届くはずもなく。やはり、最低メガホンでも積んでおくべきだった。
遂に、DB2の椅子の野郎がゲートに辿り着く。
「ちきしょーっ!」「撃て撃て撃てぇっ!」
M9の弾を華麗に避け、スルリとゲートを潜る。その瞬間だった。
『ドンッ!』
ゆっくり上がっていたゲートが、突然落下して、地響きがする。
「わぁぁぁぁっ」「開けろぉぉぉぉっ」『ドーンッ』
一号車はゲートに衝突して大破。たちまち爆発炎上した。
車中が阿鼻叫喚となっていても、それを気にする者はいない。




