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ハッカー殲滅作戦(九十二)

『ピピピ。ピピピ。』

 投入されたコマンドにDB2が反応している。本部長ペンギンは、最後に『3』を押した。

 すると、その『3』から、カウントダウンが始まった。


『ピッ・ピッ・ピッ』

 小さな電子音が鳴っている。外では、車をぶつけられる音と罵声が響いているが、本部長ペンギンには、その小さな電子音しか耳に入らない。


「ありがとうな」

 ポツリと溢したその礼が、アストンマーチン・DB2に向けてなのか、それとも愛しい妻・京子に向けてなのかは判らない。

 しかし、隣に京子はいない。甘えて寄り添う温もりもない。代わりにあるのは、飛び散った冷たいガラス片だけだ。


 それでも、出かける度に、京子が楽しそうに隣でお喋りしている様子が目に浮かぶ。そして、ひとしきり喋り終わると、自分の好きな曲を掛けたまま、可愛い寝顔を魅せていたことも。


 本部長ペンギンはハンドルから手を離す。そして、覚悟を決めて目を瞑った。

 自然と笑顔がこぼれる。それは、とても満足気な笑みだった。


『ボーン!』

 DB2から大きな音がして、今度は白い煙が立ち昇る。


 DB2の左側を走る一号車の運転手は、『イーグル』の動きが見えていた。右手で『テンキー』を操作している。どうやら、まだ『何か』やるつもりだ。


「あいつ、また笑いやがった」「終わりだよ。ぶっ潰せ!」

 助手席の男は、完全に頭に血が昇っている。

 それでも運転手の脳裏には、その『安らかな笑顔』が引っ掛かっていた。散々振り回して来て、ついに力尽きたのか?

 視力一・五の目には『カウントダウン』の様子が飛び込んで来る。そして、ハンドルから手を離したではないか。


「野郎、自爆する気だっ!」「何っ?」

 咄嗟にハンドルを左に切ってDB2から離れた。そしてその直後、三号車のアタックと同時に白煙が立ち昇る。

 どうやら三号車の運転手からDB2の様子は、遠くて見えなかったようだ。


 一号車のバックミラーには、水平に開く『パラシュート』が見えていた。咄嗟にブレーキを踏む。

 しかしそこへ、DB2が衝突。いや、それだけではない。三号車も『押し過ぎて』一緒にやって来ていたのだ。


「おおおおおおっ!」「何だっ!」「馬鹿っ、何やってんだっ!」

 車内は大混乱だ。しかし、ブレーキが効いて減速し、ライトが一つ破損しただけで済んだ。左右に振られるのを必死にコントロールして、百八十度回転して止まる。


『ドガーン!』

 三号車はDB2と一緒に炎に包まれた。本当に自爆だったようだ。

 バランスを崩した三号車は、成す統べなくコントロールを失って一緒に吹き飛んだ。そして、タイヤが転がっている。


 その様子を、一号車の運転手はバックミラーで確認することが出来た、筈だった。しかし、今はそれ所ではない。

 例え三号車の連中が、今頃阿鼻叫喚の地獄絵図であったとしても、任務を遂行しなければならなかったからだ。


 確かに、DB2の屋根は吹き飛び、大爆発を起こしていた。

 しかし、一号車の四人が見たそれは、確かに『イーグル』の姿そのものだったのだ。


 DB2に仕掛けられた火薬が炸裂し、DB2が前後に引き離された。そしてその瞬間、パラシュートが『ボン』と開き、後部だけが減速して行く。

 途切れたシャーシの先端が、赤い火花を散らしている。


 やがてその後部から、まるで椅子だけが走り出すように、飛び出して来たのだ。まるで二人乗りのゴーカートだ。

 どうやって操縦しているのか知らないが、とにかく椅子だけが走っているのだ。

 悪い夢でも見ているのだろうか。信じられない光景だ。


「出口に向かったぞ! 追えっ!」「糞っ! なぁんて奴だっ!」

 本当に最後になった一号車は、アクセルを全開にする。通り過ぎてしまった赤坂見附の交差点に戻るのだ。

 そして角を曲がった頃で、ふざけた恰好の『イーグル』を捉える。

「逃がすなっ!」「撃て撃て撃て撃てぇぇぇっ」「うぉぉぉっ!」

 思い出したかのようにM9を取り出すと『坂を登る椅子』に向かって、矢継ぎ早に撃ち始めた。

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