ハッカー殲滅作戦(九十一)
『ボンッ!』「なっ?」
それは、突然のことだった。DB2の前方から煙が立ち昇る。
フロントガラスは割れている。だから本部長は、車内に入って来たその『黒煙』に襲われる。
「ウッ。ゲホッ」
少し吸い込んでしまった。それは、エンジンオイルが焼き付いたものだ。そんなものを吸い込んだらむせてしまう。
こう見えて本部長も、実は人間なのだ。
下を向いていたのは、一秒もなかった。しかしその間にDB2のエンジンが破裂する。部品が『凶器の花火』となって飛び散った。
再び頭を上げた本部長は、ヘッドレストにぶっ刺さった部品を、フロントガラスから投げ捨てる。
「おいっ! 爆発したぞっ!」「ざまぁみやがれっ!」
後の二台が示し合わせ、ニヤリと笑う。見れば、エンジンを失ったDB2は惰性で走っているだけか。速度を落としつつある。
それでも、まだ百キロ越だ。そんなDB2に肉迫して行く。
確かに、そのときDB2は惰性で走っているだけだった。スピードも目に見えて落ちてきている。
それでも本部長は、冷静だった。ニヤリと笑う余裕さえある。
「たかがエンジンを、失っただけだっ」
当然の状況を口走る。そして『テンキー』を操作した。
『ウイィィィィィン!』
数々の『ギミック』を作動させていたバッテリーを、四輪に仕込まれたモーターに接続する。今聞こえたのはその音だ。
DB2は『電動4WD』となって今、復活を遂げた。
「おいおいおい! 加速してるぞっ」「どうなってるんだっ!」
追い付きそうだった二台は、DB2が『不思議な加速』をしたことに驚いていた。
それでも『ニトロの加速』に比べれば、比較にはなるまい。そして、本職の電気自動車に叶う筈もない。
遂にDB2を挟んで両側に追い付いた。見れば『イーグル』の顔は必死だ。二台は『勝利』を確信して、同時に幅寄せをする。
「おりゃっ!」「死ねやぁっ!」(ガシャン!)
DB2の左側からアタック。ぶつけられた勢いで右へ。しかし、それをもう一台がブロック。逃がすものか。
「ホラホラホラァ!」「なぶり殺しだっ!」(ガシャン!)
DB2の右からアタック。ぶつけられた勢いで左へ。どんどん車幅が狭くなっていく。本部長も必死に加速し、頭を何とか前に出そうとしているが、それは叶わない。
現代のSUVの方がパワーが上だ。遂に本部長は掴まった。DB2の丸いライトが割れ、開きっぱなしだったトランクが、ぶ付けられる度にパタパタしている。
もつれ合ったまま三台は、赤坂見附の交差点に差し掛かっていた。
ここを左に曲がって、心臓破りの坂を登って行けば地上だ。しかしそれは、どうやら叶いそうにない。
本部長は覚悟を決めると、テンキーの操作を始めた。




