ハッカー殲滅作戦(八十六)
吹き飛んだ車の陰から、また車が現れる。しかし『真後ろ』は警戒しているのか、斜め後ろを並走中だ。
本部長は、チラッチラッと振り返りながら距離を測り、時々蛇行して見せる。すると車は、逆を行く。
『停まれっ! 攻撃の意思はないっ!』
「けっ。馬鹿かよ」
謎の停車命令を聞く程、本部長はお人好しではない。停戦だって現場の判断により、勝手に決まる訳ではないのだ。
取り敢えず停まって欲しかったら、白旗でも揚げろってんだっ。
と、言いつつ急ブレーキ。ほら見ろ。追い越して行きやがった。
「おいおいっ! 何台来るんだよっ!」
まだライトだけだが、正面からまた『車列』が来ていた。DB2は方向を変え、銀座の裏通りへと入って行く。
「上も下も、詳しいぜ?」
呟いて、ニヤリと笑う。会社の金であちこち『視察』した。表通りから裏通りまで。
正面から来たのは高輪班の車列だ。高田部長が出入りしている。という地域に待機していたのだが『ご本人登場』の一報を受け、急遽駆け付けたという訳だ。
あともう一班の麻布班三台は、一番近いアンダーグラウンド出入口方面へ先回りしようと急行中だ。
「そこの路地を入れ!」「行けるのか?」「行くんだよ!」
赤坂班の三号車が、DB2と一本違いの路地に入って行く。
所々建物が基礎を残して消滅している。建物ごと上の『新地盤』に引っ越ししたのだろう。だからDB2がチラチラ見える。
DB2の後ろには、高輪班の三台が付いて行っている。後ろから『ドン』と小突いてやれば、止まるだろう。
ちょっと怪我するかもしれないが、それ位は仕方ない。
すると、一号車の前タイヤが急にパンクしたのだろう。ハンドルを取られているのか、蛇行を始めた。
おいおい、何というタイミングでパンクだ。ちゃんと空気圧測って来たか? タイヤの状態は確認したのか?
え? ちゃんと確認した、だと? 聞こえないけど。
だとしたら、まるで『撒菱』でも踏ん付けたかのようだ。
『ガガガッガッシャーン! ドン! ガラガラッボーン』
一号車がバランスを崩し、遂に電柱に衝突して急停止。そこに二号車が突っ込んで、二台は大破してしまった。
その横を『歩道もOK』な三号車が躱して、追跡を続行中だ。
赤坂班の三号車も数十秒前、暗闇の中を疾走する『前の二台』が、突然『消失』して面食らっていた。
上からの指示通り『停まれ』と言っても聞く気配はなく、そう言えば『本社班』は何処へ逝ったのか。まさかまさかのそのまさか?
「なぁ、この状況、ヤバくないか?」「あぁ。かなりな」
助手席の男がDB2を指さして言うと、運転手も同意して頷いた。
高輪班の三号車が窓から『M9』をぶっ放しているのだが、何だか『チンチン』鳴らしているだけにしか、見えないのだが。一体。




