ハッカー殲滅作戦(八十四)
一号車の後部座席の男は、支給されたサブ・マシンガンの『M9』を、隣を並走するDB2に撃ち込むべきか悩んでいた。
上役からの指示は『生け捕り』である。しかし、前の二人は面白がっているのか、『殺っちまうつもり』だったようだ。
すると、窓から信じられない光景を目撃してしまった。
DB2のトランクがパカンと開いて、そこから明るい閃光が。
『シュパンッ』
暗いアンダーグラウンドで、それは正に『光の矢』である。
『ドゴーン! ガッシャーン』
後ろを走る三号車に直撃。避けられる訳がない。あっという間に前のめりになって縦に転がり出した。凄い高さだ。
戻ったと思ったのもつかの間。止まらずにバランスを崩して横転。今度は時々高くジャンプしながら、横に転がって行く。
今頃、車中はきっと阿鼻叫喚だろう。名前も知らない三号車の連中が、この後どうなるかを心配する余裕はない。一歩間違えば、こちらだってああなるのだ。え、嘘でしょ? 何を見せられているの?
「何だぁあれぇっ! 冗談じゃねぇぞっ!」「聞いてねぇよ!」
前の二人が慌て出す。これで二台とも消えてしまったではないか。
「前に出ろっ」「だなっ」
こっちはさっきから出力に余裕はある。ちょっと怖いだけだ。
「ボサッとしてないで、撃て! どんどん撃てっ!」
助手席の男が後ろの二人に指示する。でかい声だ。仲間が二台逝ってしまっている。遠慮してはいられない。指示が何だ!
直ぐに窓を開けてM9を構える。撃てば当たる距離だ。
『パパパッ』(チンチンチン)『パパパッ』(チンチンチン)
あれ? 当たっている、よね?
『パパパパパパパッ』(チンチンチンチンチンチン)
「何やってるんだ! ちゃんと狙え!」「当たってるって!」
防弾仕様なのか? 民間人の車で? イーグルって何者なんだ?
疑問譜ばかりが浮かぶ。何が起きている? 俺達、誰と戦っているの? 前に出ると、フロンガラス越しに運転手の顔が見える。
その顔は、まるで『俺がイーグルだ』とでも言いたげに、ニヤニヤ笑っているではないか。ムカつく野郎だっ!
「タイヤを狙えっ! タイヤだっ」
すると、それが聞こえたのかようにDB2が蛇行を始めた。
後ろの二人は車内で、反対側の窓に向かうが、すると直ぐに逆へ行ってしまう。高速で運転しながら、良く見てやがる。
「クソッ、チョロチョロしやがって!」「こっち来いよっ!」
後の二人は弾倉を抜いて、後ろに放り投げた。弾はまだある。
「全部ぶち込んでやる」「絶対ぶっ殺す」
「おいっ! 上を開けろ!」「あぁ判った」
運転手の後ろが天井を叩く。直ぐに運転手が操作して、サンルーフが開く。その動きがじれったい。手を添えるとグッと押し出すように後ろへ押しやって、椅子の上に立った。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇっ!」
『パパパ(二十五発分)パパパッ』(チンチン(全弾)チンチン)
「くっそぉっ! こぉんなんダメだぁっ! バズーカ砲よこせぇっ」
銀座四丁目交差点が近い。右からライトが差し込んで、交差点が明るくなっている。赤坂方面からの車列だろう。




