ハッカー殲滅作戦(八十三)
「あの車がイーグル?」「あぁ、そうらしいぞ」
四人が乗車したSUVが、静かに走り出す。電動の最新型だ。
グングン加速して行く。申し分ない。銀座通りを左に曲がるのも、一度右に膨らんでから行けば減速しなくて良い。
曲がるときに先頭の一号車が見えた。しかし、直ぐに見えなくなった。三号車から見えるのは、前の二号車だけだ。
「結構年行ってるらしいな」
助手席の男が運転手に話す。運転手は頷いた。
「あぁ。見た感じはそうだな」
「じゃぁ、楽勝なんじゃないの? なぁ?」「アハハ」「だよなぁ」
振り返って、後部座席の仲間に聞くと、当然のように返事があった。前に戻るときに運転手の顔を見たが、笑ってはいない。
「イーグルは、結構『やり手』らしいぞ?」
「そうなの? まぁ、顔だけは怖いけどなっ」
運転手の忠告を聞くつもりはないようだ。再び後ろの仲間に振る。
「ハハハ。俺も見たけど、あの顔で女を何人も囲っているって」
「だよなぁ。『夜は最強』なんちゃってぇっ、て奴かぁ?」
いやらしく両手を前に出し、シートベルトに固定されたままの腰をカクカクさせて悪ふざけだ。
それを見た助手席の男が、ヒョイと指さして言う。
「だとしたら、お前よりは強いかもなぁ」「ケケケッ!」「酷っ」
笑いながらもう一度運転手を見たが、その横顔はクスリともしない。まだ真顔のままだ。
「何だよ。車ごと殺っちまえば、関係ないべぇ?」
手を伸ばして運転手の肩をポンポンと叩く。そこで運転手は、やっと苦笑いになった。
運転手は『イーグルの逸話』について話そうとしたが、それは止めた。何故なら前を行く二号車が、急に蛇行し始めたと思ったら、あり得ない方向に向きを変えたからだ。
「危ない!」「うわあぁぁぁっ!」「何だ?」「うぞっ」
追い付けなくなるからブレーキは踏めない。急ハンドルも出来ない。もちろん、助けにも行かれない。
三号車は横に転がり始めた二号車を左に見ながら、すぐ横をすり抜ける。車中はきっと阿鼻叫喚だろう。
名前も知らない二号車の連中が、この後どうなるかを心配する余裕はない。一歩間違えば、こちらだってああなるのだ。
「何だ? 何やられたんだ?」「判らん」「すげぇな」
運転手だけが必死に前を見ていた。一号車はイーグルの車の横に迫りつつあるが、近寄れずにいる。
『ぶつけてでも止めろよっ』
運転手はそう思って眉をひそめた。それは『一号車の動きに疑問を感じたから』ではない。前を走る車に『既視感』があったからだ。
「あの車、どこかで見たことあるなぁ」「そうなの? どこ?」
聞かれても直ぐに思い出せない。いつ見たんだっけ? と思いながら、アクセルを吹かして前に出る。
すると突然、後ろのトランクがパカンと開いた。
「思い出した! 『本吉さんのペンギン号』だっ! やべぇ!」




