ハッカー殲滅作戦(八十二)
銀座通りを左に曲がる。そして万世橋を渡った所で、DB2のバックミラーにライトが見えた。
そしてそれが、どんどん大きくなって来る。
本部長はタコメーターと、スピードメーターを見た。車の調子は悪くない。それなのにまるで、速度が遅くなっているのではないかと思われる程だ。
勝手知ったる銀座通り。取り敢えずアクセルを踏んでみる。
「付いて来るなぁ。何だ?」
相手は電気自動車なのだろう。とても静かで、アンダーグラウンドに響いているのは、DB2のエンジンだけだ。
バックミラーを見ながら須田町交差点を曲がると、何と車が、後ろに下がったではないか。
「あれ?」
いや違う。直ぐに気が付いた。横目に車が見える。
すぐ後ろにいた車が、反対車線に飛び出し、さらに加速してDB2の横に並び掛けている。そして、二台目がいるのだ。
「何だ? 何だ?」
尋常じゃない。本部長はギアを一段落として左に振る。すると反対車線の車と、すぐ後ろの車が一緒に左へ寄って来た。
「んんっ? もう一台いるなぁ。何何?」
本部長は『世の中頭のおかしい奴がいんなぁ』と思いながら、首を捻る。ここが何処だか理解しているのだろうか。
警察も来ない。救急車も来ない。その上、保険も適用外のアンダーグラウンドですよ? それなのに、まったく。
こんな所でカーチェイスなんて冗談じゃない!
「上等じゃねえぁかぁぁっ。おめぇら、覚悟は出来てんだろうなぁ」
誰も聞いては居ないだろう。しかし、言いながら本部長は、ギアを一段上げてアクセルを全開にする。
その唸りを上げたエンジン音が『戦闘開始』の合図だ。
後を追い掛けてくる車がDB2の直ぐ後ろに来た。本部長は加速しながら左右に蛇行する。すると後ろの車も追従して蛇行し始めた。良し良し。一番ボタンに手を掛ける。
「食らってろっ!」
躊躇なく押された瞬間、漆黒の闇にオイルが撒かれる。バックミラーに映る車が横にスピンして行く。
逆ハンドルで耐えているかもしれないが、所詮車高が高いSUV。バランスを崩して一巻の終わりだ。
進行方向に対し真横になってしまった瞬間に、横倒しになってグルグルっと回転をし始める。
「一丁あがりっ」
本来SUVとは、舗装道路を高速で走るものではない。
ましてアンダーグラウンドで、人の車を襲おうとするときに使うものでもない。例えばBBQするときとか。
『ドゴーン!』
爆音と共に、バックミラーに閃光が映った。
BBQにしては火力が強い。ちょっと着火剤、多過ぎなんじゃないの? と、本部長は思っていることだろう。
しかしその炎は、日本橋でジャンプした直後に見えなくなった。




