ハッカー殲滅作戦(八十)ペンギンの死闘
「戦闘の様子は如何ですか?」
本部長がエレベーターの中で黒沢、確か少佐に話し掛けた。すると黒沢はパッと顔を上げ、気難しい顔をして答える。
「あれには『決定的な欠点』がある」
「ほう。そうですか。どのような点でしょうか?」
責任者として、それは聞いて置きたい。しかし、パッとドアが開いて、来賓者専用エレベーターホールに出た。
「機密事項だ。公の場所では言えない」
冷たく言い捨てると、カッカッと歩き出す。流石、男勝りの女士官である。何事も徹底している。
しかし、今日の来賓者は二人だけ。まだ『公の場所』とは言えない筈だ。本部長はそう思ったのだが、それを初めて来た二人が知る由も無し。
程なくして、お帰り用のエレベーターホールに辿り着く。既に何台かのハーフボックスが待機中である。すると二人は軍用でもない、只のハーフボックスへと向かい、それに乗り込もうとし始めた。
「これで良いのですか?」
呼び止めた本部長の声に、名前も忘れたカバン持ちの方が『やっべ、間違えたっ』とばかりに両肩をビョンと上がる。
黒沢少佐がニッコリ笑って振り返る。そして、ドジな部下をハーフボックスに蹴り込んだ。本部長は、少し羨ましい。
「この後、『民間の施設』に、行きますのでっ」
左手の親指と人差し指で輪を作り、口に近付けてあおる。
「あぁ、ではご一緒に」
ピンと来た本部長は、定員も忘れて乗り込もうとする。いや、女士官の膝の上でも良いと、思っているのだろうか。
「いえいえ。予約、してありますのでっ」
ニッコリ笑って遠慮された。するとそこへ、ハーフボックスの中から部下が顔を出し、二人に向かって声を掛ける。
「遅れますy」
すかさず黒沢少佐の右足が、部下の顔面を捉えた。おでこに奇麗な踵の跡を残し、ハーフボックスに沈んで行く。凄くイイ。
「あぁ『こっち』ですね?」
本部長は頷きながらそう言うと、左手の親指と人差し指で輪を作り、右手の人差し指をそこに通す。
返事はない。しかし、それが『答え』なのだろう。相手若いし。
「失礼します」「お役目ご苦労様でした」
ハーフボックスに乗り込んだ所へ、本部長が中を覗き込みながら付いて来る。ドアが閉じるまで、あと五メートル。
「大佐によろしくお伝え下さい」「はい」
お辞儀して頭をペコリと下げる。仲良く二人共会釈した。
そのままニコニコ愛想笑いを振り撒きながら、本部長のお見送りが続く。黒沢は我慢していたが、ピンと来た。
「欠点は『強過ぎること』です」
「なるほど。過ぎたるは、ですな。ありがとうございます」
ゆっくりとドアが閉じる。本部長はハーフボックスを見送りながらうんうんと頷き、深呼吸する。そして呟いた。
「偽者にしては、良いことを言う。さて、京子さまぁ帰りますよぉ」




