ハッカー殲滅作戦(七十九)
『全権の鮫島です』
「鮫島少尉、お世話になります。『全権』のイーグルです」
互いに『上官』から『全て任された』交渉が始まった。
『設定が少々『強過ぎた』ようでして』
後には大勢の部下が映り込んでいる。下手なことを言ったら、カメラが『ハチの巣』になりそうだ。
「大佐の『要求仕様』の通りでして。特別なことは何も」
『そうおっしゃいましても』
まだ交渉は始まったばかりなのに、もう撃たれそうな勢いだ。そもそも要求が『何か』も判らない内に。
「会議で『これじゃ勝てない』と、何度もおっしゃっていたではありませんかぁ」
苦笑いで高田部長が言う。
そう。軍と仕様について話し合っているとき、良く耳にする『キラーワード』。それがこの『これじゃ勝てない』だ。
これが出てしまったら、提案する側は、もう何も言い返すことができない。そこに『妥協』という二文字は、存在しないのだ。
『単刀直入に言います』「はい」
軽く返事をしたところで、スクリーンを見つめる。すると鮫島少尉は深呼吸をして、ゆっくりと話す。
『全軍で立ち向かうので、操作をお願い出来ますか?』
「はい。判りました。お任せください」
『うおぉぉぉ』『やるぞぉぉ!』『やったあぁぁっ!』
『貴様らっ、お望みの戦争だっ! 準備しろぉっ!』
『サーッ・イエッサー! フォォォォ』『ワァァァ』
一斉に兵士が走り出す。ちらっと見えた笑顔が眩しい。
『俺のマグナムが、遂に火を噴くZE!』
『俺のデザートイーグルだって、負けてないZE!』
こらこら、遠足に何を持って来ているんだっ! と、突っ込みを入れようとした鮫島少尉であったのだが、振り返ったときにはもう、誰も居なかった。まったく、しょうがない奴らだ。
苦笑いでカメラの方に振り返り、交渉の続きに戻る。
『それでですね。自動警備一五型への攻撃を許可して頂きたい』
高田部長は苦笑いだ。小銃で撃った所で、自動警備一五型はビクともしない。
「それは構いませんが、絶対近付かないで下さいね?」
『まずいですか? 隊員の安全を確保出来ませんか?』
そう都合良く行くものか。攻撃はするが、反撃はするなと?
「即死しますよ? まぁ『武器使用』と『撃退』をロックします」
そう言うと、牧夫に目配せして指示を出す。
『宜しくお願いします。あとですねぇ』
「何でしょう?」
少し言い辛そうだ。頭をポリポリと掻き、眉毛をピクピクさせている。きっと軍人として言うべきか、迷っているのだろう。
『えーっと、大隊手持ちの全兵器の使用、及び陣地構築、擬装、C4の使用、トラップの設置を許可して頂きたい。のですが?』
つまり『何でもアリ』を宣言してきたのだ。本気と書いてほんきと読む、あれのことだ。マジで目が怖い。本当に殺る気だ。
「それは問題ありませんが、損害が出た場合『瑕疵担保保証の対象外』となりますが、それで宜しいのでしょうか?」
首を傾げて聞く。一応『会社人』としての質問だ。
『作戦執行までに、予備はありますよね?』
「はい。ございます」
鮫島少尉は、『お金』のことは気にしていないらしい。
『じゃぁ、大丈夫と言うことで』
「すいませんね。後で書面にさせて頂きます」
『了解しました。よろしくお願いします』
「あと、調査の為『事故機』は提供頂けますか?」
ニッコリ笑って『事故機』と言う所が高田部長らしいではないか。鮫島少尉も『なるほど』と思ったのか、苦笑いだ。
『了解しました。『事故調査』もお願いします』
交渉は終わったようだ。鮫島少尉の顔がパッと明るくなった。作戦を色々考え始めているのだろう。
「では、準備が出来たらお知らせください」
『痛み入ります。では、早速準備に取り掛かります』
「あっ、ちょっと待って下さいっ!」
さっと敬礼して立ち去ろうとする所を、慌てて呼び止めた。
「あと一つだけ。うちからも『お願い』をしても良いですか?」
『はい。何でしょうか?』
モニター越しの二人が、互いに首を傾げている。
「こちらは『ホーク』を参戦させますので」
途端に鮫島少尉の顔が凍り付く。まるで『それは聞いていない』とでも言いたげに。そのまま返事をするまでに、三秒の間があった。
『承知しました。お手柔らかにお願いします』




