ハッカー殲滅作戦(七十七)
富士演習場のバラックに、訓練に参加した兵士が準備を始めている。情報が何処から漏れるか判らない。だから、この作戦に参加する兵士自らが『敵役』を担うのだ。
兵装は実弾を使うため、安全に考慮して慣れた89式を許可。調査では敵のRZは、M16やAKー47らしいが、大差はないだろう。
手榴弾については、一旦禁止だ。まぁ、実戦では自棄になってボンボン投げては来るだろうが。それ以外の物も含めて。
閃光弾は瞬時に画像処理されるので、モニター越しには『何の効果もない』と、全員が判っている。だから使う奴はいないだろう。
バズーカ砲や機関銃は、問答無用で使用禁止。ハンデとして『イチゴちゃんは攻撃に参加しないこと』とした。
ミントちゃんをバズーカ砲や機関銃で落とすことは、ほとんど不可能に近いだろう。
『作戦開始まで、あとサン・マル秒』
バラックに隠れた兵士達は、ほぼ『普段と同じ兵装』である。
少々違うのは、目を守るゴーグルと、首を守るために襟を立ている位だ。それ以外は『自由』となっている。理由について疑問を呈する者はいない。なぜなら全員が理解していたからだ。
ミントちゃんが狙うのは『頭部のみ』であることを。
『フタ・マル秒前。全機正常。計器オールグリーン』
妙に理解がよろしい『仮想敵』が配置を完了したと、合図があった。外はまだ明るい。このまま戦闘を開始すれば、黒色のミントちゃんが丸見えで、一見不利にも見える。
『キュウ、ハチ、ナナ、ロク、ゴー、ヨン』
カウントダウンは止まらない。やるつもりだ。全員銃を構えた。
『サン、フタ、ヒト、マル。作戦開始。全機発進せよ』
隊列を組んで待機していたイチゴちゃんが、全速力で動き出す。さっきの『練習』とは明らかに違う。『殺人マシーン』に相応しい動きだ。そして、大通りの入り口で『悪魔のドローン』を放つ。
静穏性に優れたミントちゃんは、これまた『練習』とは違い、最初から全力で動き出す。飛び上がり、加速しながら二秒で隊列を組むと、直ぐに最高速度の二百キロに到達。担当区域へまっしぐらだ。
練習の最後に見せた『大通りの雄姿』とは一体。あっという間に大通りから消えて行く。残ったのは『隊長機』のみだ。
中継役のミントちゃんも、ずっとぼやっと『中継』をしている訳ではない。実際の兵士でも『俺はあっちを見て来る。ココで落ち合おう』と、戦域を分担するではないか。
だから、何秒後に戻るかを予め決めると、それまでは『自由戦闘』となるのだ。
『三番戦死・位置バラック七』「おぉ」「殺りますなぁ」
直ぐに最初の『戦死者』が出た。本部がどよめき、笑顔が溢れる。
今頃三番のヘルメットが、真っ赤になっていることだろう。もちろん『ペイント弾』でだ。
『七番戦死・位置、あっ十五番戦死、三十八番も、十五、一、八、、二十五、三十一、あぁあぁあぁあぁっ。(ピー)』
作戦終了の合図だ。本部は一気に静かになっていた。
無理もない。自分の育てた部隊が、三分も持たずに全滅したのだ。




