ハッカー殲滅作戦(七十六)
司令官席に戻って来た本部長は、退屈そうにあくびをした。はっきり言って暇である。
これなら戦場にいた『あの頃』の方が、よっぽどマシだ。あぁ、若かりしあの頃にプレイバァック! あれ? 何か違う。
「何やってるんですか?」
興味津々な顔をして近付いて来たのは、暇人仲間だ。本部長は、その顔を見て現実に帰って来た。
「いやぁ、『バック』について色々考えていてね」
「まぁたぁ『エロ』いことですかぁ。もうちょっとの我慢ですよ?」
時計を親指で指さして、高田部長が言う。
「いやぁ、そっちの『バック』じゃないよぉ」
ピンと来た本部長が言い返すが、目が垂れている。
「どっちの『バック』なんですかぁ。それしかないでしょうがぁ」
言われて気が付くこともある。本部長は納得した。
「確かにな」「そうですよぉ」
「でも京子は『バック』苦手なんだよぉ」「ですよねぇ!」
本部長は『こらっ』と言って引っ叩こうとしたが、サッと差し出された書類を見てそっちに手を伸ばす。
「電波干渉があるみたいです」「ふーん」
高田部長の報告を受けて、本部長は一応頷いた。そんなの、大した問題ではない。
そのまま書類に目を通しながら、高田部長に問う。
「シールドは?」「有効です」
「自爆装置は?」「影響ありません」
「機器間通信の漏洩は?」「届かないので無理です」
「じゃぁ、電波ジャックは?」「今朝決めた周波数です」
「本番とは違うの?」「当然です。全部ランダムです」
パパっと思い付いた所を質問したが、どれも該当しない。
「他社の偵察じゃね?」
本部長がニヤリと笑って聞いた質問に、高田部長は答えない。考えている。真剣な顔。暫く待つとしよう。
「基地内ですかね?」「探しに行く?」
まるで『狩り』でも行くような軽いノリ。言われた高田部長も同じように考えていたきらいがある。するとそこへ、牧夫が同じ書類と地図を持ってやって来た。
「富士山レーダーじゃないですか?」
地図に付けた赤丸をトントンと指さして、口をへの字にしている。
「何だ。つまらん」「余計なことに気が付くよなぁ」
二人揃って口を尖がらせ、ブー垂れている。それを見た牧夫は溜息だ。もう少しこっちにも、協力的になって欲しい。
「だとしてもですよ? 今から行って、間に合うんですか?」
腕時計をタンタンと叩く。しかし、二人の時間感覚は特殊だ。
「車飛ばして行けばぁ」「そうだよぉ。ニトロまだあるしぃ」
「もう。子供ですかぁ。勘弁して下さいよぉ」
二人は『高速は自動運転車のみ』という事実を、知らないようだ。




