ハッカー殲滅作戦(七十二)
「良し。一旦スタート位置に戻って充電だ」
作戦本部からの指示が飛ぶ。富士演習場に造ったバラック街、東京アンダーグラウンドで実施される掃討作戦の練習場だ。
そこに展開していたミントちゃん各機が、次々と撤収し始める。
ある機はバラックの窓から外に飛び出して。またある機は、放置された廃車の窓から飛び出して来た。
ミントちゃん同士が互いに連絡を取り合い、お互いの位置を把握している。だから、窓の外には警戒役であり、命令と座標を伝えるのも兼ねて僚機がホバリングしているのだ。
窓から飛び出して来た僚機と、仲良く一緒に飛び上がる様は、さながら仲間を思いやる『連携の取れた一部隊』に、見えなくもない。
大通りは、たちまちミントちゃんで溢れかえる。
訓練だから、損失はゼロ。例え違う部隊であっても、そこは仲間同士。一定の距離を測りつつぶつからないように、母艦となるイチゴちゃんに戻って行く。
「無線の調子はどうだ?」
そう。無線は重要だ。アンダーグラウンドでは、携帯の電波も入らない。そういう意味で外部からの『電波干渉』はないのだが、言わば狭い空間であり、無線が飛ぶ範囲は限られる。
「ちょっと、一定間隔で干渉波があります」「何だって?」
無線の状態を監視している隊員が、レーダーの波形を指さした。それを上官が覗き込む。
「あぁ、それは大丈夫だ」
すわ一大事と、真剣な顔をしていた上官の顔が緩む。
「そうなんですか?」「あぁ」
上官が笑顔で上を指す。隊員は釣られて上を見た。今日は曇りだ。
「曇りだから、ですか?」「プッ」
今度は上官の顔を見て聞く。すると上官が噴き出した。
「違うよ。富士山レーダーだよ。気象レーダーも同じバンドなんだ」
手をパッと振り否定すると、富士山の方を指さした。一定の間隔なのは、アンテナがクルクル回っているからだろう。
「なるほどぉ。そうなんですねぇ」
納得して隊員も頷いた。二人は九州からの応援部隊で、富士山を眺めるのが楽しみだったのであるが、今日は残念だ。
「あぁ。それが、何か問題か? 通信に影響が?」
落ち着いた感じで再確認する。そう。問題がある筈はない。
何故なら、そこからでも美しく隊列を組んだ『ミントちゃん編隊』の雄姿を、確認できているからだ。
「いいえ。問題ありません。全然大丈夫です」
隊員の顔がパッと笑顔になった。むしろ苦笑いだ。
「まぁ、そうだよなぁ。見えるもんなぁ。はははっ」
隊員の笑顔を見て、上官も同じように笑い出した。
「これじゃぁ、監視役は『役立たず』と言われても仕方ないです」
「だよなぁ。やっぱり夜にならないとなぁ。本領発揮できないなぁ」
二人を顔を見合わせて、呑気に遠くを見た。風は相変わらずだ。
これだったら、富士山が見える温泉にでも入って、のんびりしていた方が良い。風呂上がりの牛乳は、さぞや美味かろう。




