ハッカー殲滅作戦(六十七)実機訓練
高田部長の丸目四灯は、会社の駐車場にやって来た。入り口から螺旋状の通路を通って上にあがる。
水害防止のため、貴重品は上へ。ビル設計の基本である。
「本部長、何処まで行っちゃったんですかねぇ」
「知らねぇよぉ。あの勢いじゃ御徒町は硬いな」
勝負に負けたからか、機嫌が悪そうだ。ぶっきら棒に返す。
「え? そんな方まで行きますかねぇ?」
牧夫がうっかり反論して、しまったと思う。
「お? じゃぁ、何処まで行ったか賭けるか?」
ほらねぇ。急に元気になったではないか。
「賭け事は駄目ですよぉ。身上潰しますよ?」
「けっ。この真面目人間めっ。お前みたいな真面目をなっ、『くそ真面目』って言うんだよぉ。ホント、つまんねぇ奴」
そこまで言われては、牧夫も黙ってはいられない。
「何を言ってるんですかぁ。『お金』は賭けちゃダメって言ってるだけですよ。『誇り』とか『人生』は賭けてOKですから!」
真面目な顔をして熱弁したのだが、薄ら笑いで返す。
「お前の『誇り』だの『人生』だの、要らんわっ!」
広い駐車場が現れた。工事用の車両やらトラックがズラリと並んでいる。そこの一角に高田部長は、丸目四灯を停めた。はっきり言って、不釣り合いだ。
牧夫は丸目四灯から降りると、後ろに掲げられた看板を指さして言う。
「あのぉ『点検用車両』ってなってますけど? 良いんですか?」
言われた高田部長は目をパチクリさせる。
「これだよぉ。アンダーグラウンド、点検して来ただろう?」
何処が点検なのだろうか。ただぶっ飛ばして来ただけだ。
「えぇぇっ! 良いんですかぁ?」
高田部長が悪いことをしていない日はない。
「良いも何も、ちゃんと申請して許可貰ってるし」
「本当ですか! そんなの通るんですか?」
「馬鹿だなぁぁ。お前はぁ。かぁぁっ」
足を留めて高田部長は頭を抱える。そして舌打ち。
自分の部下が、こんな間抜けだったとは。自分の人選まで疑われてしまうではないか。
「良いか? 耳かっぽじってよぉぉく聞けよ?」「はい」
何だか急に怒り出した高田部長。素直に頷く。
「規則は縛られるものじゃない。縛るものなんだ」「はい。い?」
「駄目だこりゃ。『規則に縛られる』って泣き言を言ってないで、『規則を作って縛る方になれ』ってこと! アァンチュゥ?」
「はぁ。勝手に規則作って良いんですか?」
「そうだよ。上を納得させられれば、何でもアリなんだよ。それが会社だよ。文句があるなら、お前も何か作ってみろ?」「はいぃ」
痛い所を突く。システムは規則通りに作るからだ。経験がない。
後に牧夫は、自分の自家用車を『点検用車両』として登録しようとしたが、そんな規則は既に廃止となっていた。
「こんな所で説教して、遅くなっちまう! 行くぞ!」「はいっ」
二人はエレベーターホールに走った。今日から木、金、土は陸軍に納品した兵器の、実機訓練があるのだ。
しばらく薄荷乃部屋に缶詰だ。




