ハッカー殲滅作戦(六十四)
都心へ向け、車で通勤する人は多くない。大体電車だ。
その多くは『ハーフボックス』が届く都心の駅で下車すると、一斉に下車。各々の会社へと散って行く。
電車の終点に会社があれば、そこまで乗っていくかもしれないが、電車の駅は漏れなくアンダーグラウンドにある。
だから、三十一メートル分の上り階段を使う者はおらず、結局『ハーフボックス』を使って会社まで行くのだ。
「牧夫、寝てていいぞ?」「良いんですか?」
高田部長は前を見たままだ。言われた牧夫は、思わず運転する高田部長の方を見た。
「昨日はお疲れさんなっ」
ちらっと牧夫の方を見て、信号が青になったので走り出す。意外にも、安全運転である。前を走る本部長も。
「いぃえぇ。いつもあんな感じなんですか?」
本部長宅を訪れるのを、高田部長が『月一』だとしたら、牧夫は『年三』しかない。
「そうだなぁ。大体なぁ」
上の空で聞き流しながら、フロントガラスから上を覗き込む。
「このオービス、生きてるんだよなぁ」「そうなんですね」
「牧夫、引っ掛かったことある?」「ないですよぉ」
「そうか。だよなぁ」「高田部長は?」
「俺もないよぉ。前の車がピカったことならあるけどっ」「へぇぇ」
楽しそうに話す高田部長によると、無駄に明るい閃光に包まれるとのこと。いかにも『撮りました!』と判るらしい。
そうこう言う内に、アンダーグラウンドのゲートが見えて来た。一目見て『ヤヴァイ』場所だというのが判る。
両サイドに『守衛所』があって、兵士が守りを固めている。頑丈な鉄製のゲート。上には鉄格子、下には車をパンクさせるための車止めが隠されている。そして、巨大なスピーカーが付いた監視塔。
当然のように、本部長のDB2もゲートに向かってまっしぐらだ。前は言わば『壁』なのに。
すると『パンパーン』とクラクションが響く。続いて、ライトをカチカチとさせている。まるで合図でも送っているようだ。
『おぉはようぅございまぁすっ』
スピーカーから何故か挨拶が聞こえて来て、ゲートが開き出す。その先は真っ暗なアンダーグラウンドである。
本部長は減速させることもなく、寧ろ加速しているようにも見える。どんどん丸目四灯を引き離す。
敬礼をする警備の兵士に運転しながら敬礼を返すと、ライトを上向きで点灯させ、暗闇の世界に飛び込んで行った。
「よしっ! 俺達も行くぞ!」
高田部長の表情が変わった。それは、昨日会社を出発するときに見せた顔だ。直ぐに『パンパーン』とクラクションを鳴らすと、ライトをカチカチとさせている。
やはり、それも合図だったのだろう。ゲートが閉まる様子はない。
『おぉはようぅございまぁすっ』
のんびりと『良い天気ですね』とか、何か言葉を付け加えようにも、そんな時間はない。一瞬でゲートを通り過ぎる。
高田部長も、敬礼を返して暗闇に飛び込んだ。
「安全運転で行きましょう!」




