ハッカー殲滅作戦(六十)
揃って両手を合わせ『いただきます』で食事開始。まるで、競争でもしているようだ。今朝作ったみそ汁、ハムエッグ、ホカホカごはん。それと、残り物を勝手にアレンジした一品が並んでいる。
「朝食の支度、ありがとうございます」
一人のんびりと食べる京子。お辞儀をしたのは、隣に座る本部長だ。しかし、京子に『本当は違うでしょっ』とばかりに、笑顔で叩かれて照れる。当然お見通しなのだ。
「いえいえ。勝手に台所をお借りして、すいませんでした」
高田部長が笑顔で答えると、ごはんをパクリ。
「良いのよ。孝雄ちゃんには、いつもお世話になって。ねぇ」
苦笑いになった京子は、みそ汁を飲んでいる本部長のわき腹を、チョンと肘で突く。
本部長はゴホゴホと咳き込んでしまったが、強めの背中トントンを受けてからペコリと頭を下げる。
「いつもすまんね。助かってるよ」
「そうよ。お台所まで何か奇麗になってるし。いつもありがとう」
京子はチラっと台所の方を見てから、高田部長の方を見て微笑んだ。
床を磨いたのは牧夫である。掃除は得意だった。
「お邪魔した後は奇麗に。ハッカーの基本ですから」
ニッコリ笑って答える高田部長。牧夫は目をパチクリさせ『そういうことかぁ』と、感心しきりだ。
「そう。じゃぁ今度『ガレージにお邪魔』して貰おうかしらっ」
京子が悪戯っぽい目で、本部長を覗き込む。
「ちゃんと、片づけているよぉ」「どうだか」
京子が『ねぇ』と高田部長に同意を求めた。
ガレージには本部長の『愛車』がある。本来二台分停まれる筈なのだが、レストアするのに使われた後のガラクタが、大量に積まれていたのだ。
「本部長、あの車、どうしたんですか?」
「あぁ、間違えてポチッた」「えっ?」「えっ?」
あっさりと愛車の来歴を語る本部長。京子が手を縦に振りながら高田部長に説明を始めた。
「あの人、AS/400のジャンク買って、直してたでしょ?」
「ええ。一般人では買わない代物ですよね。良くやりますよね」
IBM社製の名機。会社で使うコンピュータだ。パソコンに非ず。
「ちょっとバラシてみたかったんだよっ」
本部長の言訳を遮って、京子が話を続ける。
「それでね。直ったから『DB2』で検索したんですって」
DB2とは、IBM社製のデータベースシステムである。自分で作るのが面倒になり、手っ取り早く買おうと思ったらしい。
「何か安いなぁって思ってポチッたら、あれが来た」
本部長がガレージの方を、箸を持ったまま指さした。
「それで『アストンマーチン・DB2』なんですかぁ!」
「いや、間違えて買わないっすよ。絶対確信犯ですよ!」
高田部長は納得して感心しきりだが、牧夫は信じていない。しかし、本部長の顔は真剣だ。
「中々『オリジナル通り』には直せなくてなっ。映画のなっ」




