ハッカー殲滅作戦(五十六)
牧夫が本部長のノートPCを借りて、調査の続きを始めた。いつもながら、癖の強いパソコンだ。
このノートPCは、どこの製品でもない。カスタマイズされた、言わば『ペンギン印』のノートPCだ。
CPUは、もちろん本部長のオリジナル。製品の型番の最後に『P』が付く奴は、本部長独自の回路が追加実装されている。
どうやってそんな物を作るかって?
そんなの製品化間近の『バグ取り』に、『ちょっと』手を貸してやるだけだ。その見返りに研究所が作ってくれている。
「孝雄ちゃん、コラ画像の方はどうだったの?」
一人中座しているが、バンバン焼きのペースは変わらない。
「それがですね、本吉先輩。家のお客さんで『突破された』って報告が入りましてねぇ」
孝雄が渋い顔をして、肉をひっくり返している。そうね。彼も指示をひっくり返すときは、それぐらいの顔の方が良い。
それは、高田部長が時計を見て、『三時のおやつ』を頼もうと、会社のパソコンで『デリバリー』と入力し、検索したときのことだった。
すると検索結果として、『奇麗なお姉さん』がズラリと並んだのだ。きっと、『何かの傾向』を掴んで学習した結果だろう。
そこへ、ちょっと早目に頼んだ『お茶』を朱美が持って来た。何気にディスプレイを覗き込む。
「最低」
朱美は、いつもの『お茶です』の代わりにその一言だけを発し、そのまま振り返りもせずに立ち去った。
そんなの高田部長にしてみれば、ただの誉め言葉だ。
そのとき、目の前の電話が鳴った。不意の出来事。
いつもだったら『牧夫出ろ』『自分でとって下さいよぉ』となるはずだった。しかし『もう届いたのか』と思ってしまった高田部長は、その電話にツーコールで出てしまったのだ。
それは何と、『顧客からのクレーム』を転送したものだった。『技術的な内容』とのことで、たらい回しにして来たのだ。
正に『仕事の電話』。高田部長が一番嫌いな奴だ。
その顧客によると、『デリバリーと実物の写真が違い過ぎる』というものだった。高田部長は『ハイハイ』と聞き流していたのだが、ディスプレイを見て目が光る。
その電話の主は、正に今、高田部長が検索結果として表示させていた企業からだったのだ。
高田部長はその電話を受けながら、ホームページを隅から隅までチェックし、系列店も参照して行く。
そして顧客に対し『丁寧な説明』を実施。ついでのアドバイスとしては、やや過剰な『正しい画像処理』についても熱弁をふるう。
そして、口コミを見ながら使えそうなフリーソフトを探し出した。
そのときに見つけたのが、この『コラ画像』作成ソフトなのだ。
「結構大変だったんですよぉ」
「うむ。それは大変だったなぁ。お疲れさん。まぁ、飲みたまゑ」
孝雄はお辞儀して、お猪口を両手で差し出した。




