ハッカー殲滅作戦(五十三)
高田部長と牧夫は執務室に戻って来た。
ポツンと照らされているのは、牧夫の席だ。薄暗い執務室を、二人は足早に走り抜ける。
「牧夫、お前写真を元に戻しておけよ?」
自分だけ先に、焼肉屋に行こうとしているのだろうか。いや、本部長を待たせてはいけないのは判る。
しかし、自分ばっかり逃げ出そうとする、その『根性』が気に入らない。
人は皆、素直な気持ちで生まれてくると言う。だとしたら高田部長は、何処から性格がひん曲がってしまったのだろうか。
「本部長のハーフボックス、止めちゃえば良いじゃないですかぁ。それぐらいパパっとやって下さいよぉ」
何と言う無茶なお願い。平然と言って退けた。
そんなの、ハーフボックスの制御システムを開発した人達が聞いたとしたら、何て言うだろうか。
「そんなの無理だろうがぁ。三秒止められたら御の字だよ」
ここにいました。高田部長は最初から渋い顔だ。
「ですよねぇ。本部長の『作品』ですもんねぇ」
溜息をついて、牧夫は自席に座り、スクリーンを復帰。
「そう言えば『残業の成果』は?」
高田部長の問いに牧夫は頷いた。
「あぁ、明日報告書送ります」
どうやら高田部長からの指示は、卒なく済ませていて、さっきは報告書を作っていたようだ。
「何か判ったか?」
明日を待っていられないのか、高田部長が聞く。
「いや、だから明日報告書を送りますってぇ」
振り返って迷惑そうな顔を高田部長に見せる。しかし、高田部長は首を横に振る。
「大体の内容、教えろってぇ。ちゃんと調べたのかぁ?」
仕方がない。牧夫は『人神』の写真を戻しながら報告することにした。
「何か仕掛けられてましたよぉ」
一瞥して『処理がおかしい』のは直ぐに判った。
「何をだ?」
タダでさえ変なのに、本部長の悪い癖がうつってしまったのだろうか。要領を得ない。
「いやぁ『何か』と言ったら『何か』ですよぉ」
邪魔したのは高田部長でしょうがぁ。まったく。
「何だよ間抜け。調べる時間あっただろうがぁ」
高田部長が怒って腕を振りながら牧夫を指さしているが、知らんぷりだ。直ぐに小言を質問に変える。
「仕込んだの誰だっ?」
「宮園課長ですよぉ。あれぇ?」
牧夫の答えを聞いて、高田部長がひょいとディスプレイを覗き込む。エラーが出ているが、何だろう。
「どうした?」
「何か、『人神』メンテ落ちしてますねぇ」
まるで他人事のように言うと、嬉しそうに笑った。ざまあみろだ。




