ハッカー殲滅作戦(五十二)
自席で鼻くそをほじっていると、本部長と高田部長が二人同時に入室してきた。
慌てたのは牧夫だ。何分経ったら『ほとぼり』が冷めるだろうか。そればかりを考えていた。
親指と人差し指を駆使して、ひとしきり丸めていた『それ』は、輝くばかりの光沢を放ち、奇麗な真円となっている。
それを人差し指で弾き飛ばし、パット席を立つ。
『ジッ』
ヒット。人工知能三号機が『それ』を、素早くレーザービームで消滅させる。これが本当のセキュリティだ。
もう少し考えて欲しい。誰だって『それ』を、自分の部屋に撒き散らかされたくはないだろう。
ここが『女の子の部屋』ということを、決して忘れてはいけない。
「あれ? 元に戻したんですか?」
牧夫が聞くと、小言が始まる。
「まだだよ」「めんどくさい」「ちゃんとやったのか?」「お前の仕事だろう?」「加工失敗したんじゃないのか?」「早いのは手だけか」「いつもそうだ」「いや、あっちもか」「なんだ、だいじょうぶか? って、そうじゃないだろっ」
本部長に突っ込まれて、二人同時に鳴り響いていた小言が終わる。牧夫は聞いていなかった。
「人工知能三号機に開けてもらったんだよ」
いや、いつもそうだけど。それに、『開けて』とお願いして開けてくれるのなら、『個人認証』の意味がないではないか。
本部長は司令官席に向かう。高田部長もその後に続いているので、牧夫も仕方なくそちらへ向かう。
今度部屋を設計するときは、ミーティングコーナーでも作って欲しいものだ。お茶を飲むのにも都合が良い。
「人工知能三号機、どうなってんの?」
主語がない。でも、本部長の質問はいつもそうだ。
『ミントには判りますが、入館システム『不夜城へようこそ』での検知確率は、三十二%となっています』
「低いなぁ。誰が作ったの?」
『琴坂主任牧夫さんです』
「認証部分は俺じゃないですよ!」
慌てた牧夫が、両手を振って言訳をする。
「どうなの?」
主語がない。すると今度は人工知能三号機からの反応がない。流石に質問が判らなかったのだろうか。
『お嬢様の、富沢部長です』
場の空気が凍る。どうやら、答えを言い辛かったらしい。当の本部長は、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔である。
「じゃぁ、しょうがないっかぁっ」
「ですよね!」「富沢部長は、画像処理が専門ではないですからね!」
二人共胡麻を擦るのに余念がない。理由が判った所で次だ次。
「じゃぁ、久々に焼き肉行くか! 三十億ナノ秒後に集合!」
三十秒? いやいや、それは無理と言うものだ。




