ハッカー殲滅作戦(四十八)
「これで、何の『コラ画像』を作るんですか?」
余計な仕事が増えた牧夫が、苦言を言う。いや、そもそもこれは仕事なんだろうか。
すると、牧夫の頭上の電気がパッと点いた。
「富沢部長と朱実を入れ替えるか」
ニヤニヤ笑いながら答える。牧夫は渋い顔だ。
そんなことで残業を命じたのか? ふざけんな!
しかし、知らないのは牧夫だけだ。
高田部長が牧夫に『ちょっと調べてくれ』と、『何を』かを言わずに残業を命じる。
それは一種の『人払い』であることを。他の人に知られてはいけない、重大な問題が発生したという意味だ。
内容が知りたくて、盗聴器のスイッチをONにする者もいたが、ことごとく高田部長に見つかって、般若心経を延々と聞くことになるので、お勧めできない。
いや、今日は趣を変えて、法華経のようだ。
牧夫の所まで、再び高田部長が戻って来た。ディスプレイを覗き込んで指さす。
「冗談だよぉ。本部長と俺を入れ替えろ」
どっちにしろ、それも冗談にしか聞こえないのだが。
牧夫は聞き間違えたと思って、首を傾げて高田部長の顔を見上げている。
「早くしろよぉ。家に帰れないだろぅ」
どうやらマジらしい。一体そんなコラ画像を、誰が求めていると言うのだろう。
コラ画像と言えば、好きなアイドルの顔と裸体を組み合わせて作る『アイコラ画像』と、相場が決まっているのにだ。
「はいはい。判りましたよぉ。何が嬉しいんだか」
判ったと言った後の牧夫の手は速い。社員証用の写真をサーバから取り出して、パパっと操作する。本部長と高田部長の首から上が見事に入れ替わった。
「そうじゃないよぉ。それじゃ意味がないよぉ」
高田部長が苦笑いで指摘する。
確かにそうだ。言われた牧夫も、そんな気はしていた。
そもそも胸から上の写真なのに、首から上を入れ替えた所で何が変わると言うのか。
「じゃぁ、どうするんですか?」
できれば自分でやって欲しい。牧夫はそう願いながら高田部長の顔を見上げた。
「顔の輪郭はそのままに、目、鼻、口、あと耳を入れ替えろ」
『高田部長がやれよ!』
とは言えない。それもそうだ。そもそも牧夫の願いなんて、最初から聞いちゃくれないのだ。
「えぇぇぇっ! 判りましたよぉ。もぉっ。めんどくさっ」
反抗的態度。それに愚痴。それでも高田部長が、牧夫を手放さないのには『理由』があるのだ。




