ハッカー殲滅作戦(四十四)
大尉は緊張しながらも、楽しい時間を過ごしていた。
予定とはだいぶ違ってしまったが、女の子と会話をしながら食事をする。とても素敵な時間だ。
その上、相手の女の子、琴美はいつも上機嫌でニコニコ笑っているし、何を言っているのか判らないが、お花が大好き。
大尉が知っている女の子とは全然違う。それだけは言えた。
だから大尉は考えていた。それは決して、難しいことではない。
目の前の琴美は、自分が守るべき存在であると言うことだ。
カタパルトから、勢い良く飛び出して行く戦闘機。パイロットは『行きます』と片道の宣言をして、大空に舞い上がる。
その胸に宿るのは、国を守る決意。そして、愛する人を守る決意。
大尉に、久しく忘れていたそんな強い決意がよみがえる。
まるで火薬式のカタパルト。大尉の右ストレートが、琴美を羽交い絞めしている男の顔面を捉える。互いに無言だ。
腰が入った一撃。あっという間に白い煙の先に消える。
琴美は丁度『護身術』を披露していた所だったが、その上に風を感じていた。その後に聞こえて来たのは、鈍く嫌な音だ。
『何やってるんだ!』
煙の向こうから、ガスマスクを装着した男が二人、大尉の後ろからやって来た。コック服を着ているが、包丁は持っていない。
琴美が驚いて、両手を口に当てた。
大尉は琴美に近付いて、右手で琴美の腕を掴むと、今座っていた椅子の方に琴美を押し込む。大尉の意図を汲んだ琴美は頷いて、ハイヒールのまま椅子の上に飛び乗った。
それを確認した大尉は、琴美から右手を離すと再び右ストレートを繰り出す。一人はあっさりと厨房の方に飛んで行く。
もう一人のコックが、大尉の腰の辺りにタックルをかます。しかし大尉は、ピクリとも動かない。
両手を組んで、目の前に見える背中に両肘を打ち込んだ。
大尉は無表情で、ずっと無言だった。『殺してやる』とも『何するんだ』とも、何も発しない。しかし胸に宿る『殺意』は、隠そうともしていない。それが判るのか集まった男達は、大尉を中心に一定の距離を保ってたじろいでいる。
『目を覚ませ!』『味方だぞ!』『この馬鹿野郎!』
色々言っているが、大尉の耳には入っていない。それどころか、テーブルを仕切る壁の向こうから、琴美にちょっかいを出そうとする男が見えて、大尉はテーブルの上に飛び上がった。
見えた琴美の顔が泣いている。許せない。絶対に、許さない。
何でこんな可愛い子を泣かす。素敵な時をぶち壊しやがって。
琴美は俺が守る。絶対に守ってやる。この命に代えても。
大尉はテーブルに飛び乗った勢いに、強い決意をプラスして右アッパーを食らわせる。琴美に手を伸ばしていた、いけ好かない野郎が消える。今度は後ろから椅子に登って来た男を、右足で蹴散らす。
戻した右足を軸にして回転し、今度は大尉に縋る野郎の後頭部を、左足の踵で振り抜く。何かが壊れる音がして、急に静かになった。
大尉はテーブルの上、まるで雲上となったその場所で、雷神の如く睨みを利かす。パッパッと左右を見て威嚇。どっからでも来い!
後の琴美を守るように左手を伸ばすと、柔らかい感触があった。




